山田 関敬六さんに聞いたことがあるんですが、本番中に渥美さんが気に入らないとね、舞台の上で殴られたって言うんですよ。痛くて、怖くて、逃げ回るんですって。すると追っかけてまた殴る。
山田洋次さんと黒柳徹子さん 撮影:下村一喜
観客はその姿がおかしくてワーワー笑う。テレビや映画に出るようになってからと比べると、ずいぶん乱暴な芸ですが、それが浅草の舞台ではとんでもなくウケたんですね。
黒柳 私も聞いたことがあります。たとえば客席で新聞なんか持ってる人がいるとね、「おじさん、新聞持ってんの」とか言って、その新聞をもらうでしょう。
ビリビリに破けたその新聞を見ながら、45分間くらい笑わせるんだって。当時の私は浅草の劇場の座長と言われてもあまりよくわからなかったんですが、それはすごいなって。
渥美さんの芸で笑うときに
観客はものすごく癒やされた
山田 座長って言ってもなかなかイメージが浮かばないしね。
黒柳 そうなの。“座長”っていうのが、なんだかわかんない。でもまあ、一緒にやってるうちにね、だんだんわかっていくのだけど……でも、いい加減なのよ!
山田 そうですね、「浅草の舞台ではいい加減なこと言ってましたよ」、ぐらいでおしまいになるんですよ。はぐらかしてね。でも、渥美さんが出ていって、観客がバーっと笑って笑って、涙が出るくらい笑って。
山田洋次・黒柳徹子『渥美清に逢いたい』(マガジンハウス、2024年9月5日発行)
僕はね、その笑いの質が、普通の笑いと違う気がするんです。渥美さんの芸で笑うときに観客はものすごく癒やされるっていうかな。惨めな人生だけど、俺も頑張って生きていこうという勇気をもらえるような笑い方を、みんながしたはずですよ。
黒柳 それこそ寅さんみたいな。
山田 渥美さんじゃなきゃ、そういう笑いを観客の心の中から掘り出すことができなかったんじゃないかなと思います。やっぱりすごいんですよ、単なるお笑い、ギャグで笑わせるのとは全然格が違う。
黒柳 うん、そうでしょうね。
山田 この、生きてる喜びみたいなものを観客に伝える。笑うことでね。
◆◆◆
>>【第2回】「黒柳徹子が、「このアマ!」と怒鳴った大物俳優に「手渡したもの」とは?」は11月21日(金)に配信予定です
>>【第3回】「何度注意しても聞かない「人気俳優」の態度を一変させた、山田洋次監督の「たった1つのお願い」」は11月23日(日)に配信予定です
>>【第4回】「名優・渥美清の「死に際」が男前すぎる…黒柳徹子に残した「最後の言葉」に涙が止まらない」は11月25日(火)に配信予定です
>>【第5回】「渥美清が「体の不自由な子」からのファンレターに返した「想像を超えた言葉」が胸にジーンとくる…」は11月27日(水)に配信予定です









