ただ、下位中所得貧困層である1日3.65ドルだと28.1%に上っている。正確なデータを示すうえでの調査が不十分だとの指摘もある。

 国際NGOオックスファム・インターナショナルによれば、インドの上位1%の人々が21年に国内の総資産の40.5%以上を所有する一方、人口の下位50%(7億人)は3%程度の所有にとどまるなど、格差も広がっている。

 スラム街に住む主婦のヌルー・アンサリさん(38)も、トタン屋根で覆われた手狭の家屋に家族6人で住んでいた。洋服の仕立てをしている夫(45)の収入は月1万5000ルピー(約2万6000円)ほど。彼女も13歳で結婚して読み書きはほとんどできないが、工場の労働者用に食事を作り、家計を支えている。

 14~20歳の子どもたちに話を聞くと、ファッションデザイナーや客室乗務員になるのが夢と教えてくれた。アンサリさんは、子どもたちに教育を受けさせることができれば、安定した仕事を得て、より良い生活が送れると信じている。

最新技術が一足飛びに普及し
庶民の生活が激変

「子どものために、自分たち親世代は犠牲になるつもり。この国の未来は、明るいと信じているから」

 彼女たちが、明るい未来を信じるのには訳がある。

 インドのような新興国では、先進国で段階的に進歩した最新技術が一足飛びに普及する「リープフロッグ(カエル跳び)」現象が起きやすいとされる。技術の進歩は、人々の暮らしを劇的に変化させる可能性を秘めている。

 その1つの例が、スマートフォンを使ったモバイル決済サービスだ。2016年にナレンドラ・モディ首相が突如発表した高額紙幣の廃止や、コロナ禍での外出制限などで一気に普及していった。

 政府が主導したスマホによる銀行口座間の即時送金システム(UPI)やインド版マイナンバー「アーダール」の導入もあり、身分証を持てなかった貧困層が銀行口座を開設できるようになったことも、利用者の増加を後押しした。

 UPIの取引額は、コロナ前(19年12月)の2兆252億ルピー(約3兆4428億円)から23年6月には14兆7546億ルピー(約25兆828億円)と、約7倍になった。