しかし企業のパターナリズム(編集部注/強い立場の者が、弱い立場の者の「利益のため」という名目で、本人の意思に反して干渉、介入すること)の本質とは、正社員を子ども扱いすることである。

 それは企業が雇用保障や生活保障さえきちんと行えば、正社員は黙って働くはずだ、という考え方だ。

社員の副業を推奨する
エンファクトリー社の理念

 他方、自社を「多様な働き手を包摂するコミュニティ」として再定義した具体例が、エンファクトリーである。

 同社は、2011年に創業したICT企業(編集部注/情報通信技術で産業や社会課題の解決や成長促進に貢献していく企業)である。

 同社は創業当時から「専業禁止!!」というキャッチフレーズにより、社員の副業を推奨していたことでも有名だ。

 同社では「相利共生」という理念を掲げ、個人と組織が共生していくことを目指している。具体的には、社員、副業者、フリーランス、アルムナイ(退職した後も、なんらかの関係性をその企業と持ち続けている人々)が同じ立場で交流している。

 エンファクトリーの社員によれば、同社は「相利共生」という理念を早くから掲げていたものの、実際には、社員、副業者、フリーランス、アルムナイといった働き手が、多様な機会で対話を重ねてきたことで、それらの働き手がゆるくつながるコミュニティとしての組織が実現していったという(注4)。

 このようにフリーランスをコミュニティの一員とみなすことは、「自営型」の働き方を企業内に浸透させることにもつながるだろう。

社員を仕事人と見る会社と
道具のように見下す会社の違い

 エンファクトリーは新興企業だが、ロート製薬のような社歴の長い企業でも、同様の動きがみられる。

 同社ではかねてから、経営トップが「社員は会社の所有物ではない」と明言してきた。社員は所有物ではなく「プロの仕事人」である。「プロの仕事人」だから、会社を道具として使ってほしいと同社では考えている。

(注4)石山恒貴・伊達洋駆(2022)『越境学習入門』日本能率協会マネジメントセンター