この考え方を端的に示す経営者の発言がある。副業の特集をした『日経ビジネス』2022年12月12日号にある発言だ。やや長くなるが、その発言を引用してみたい。

《「そもそも、なぜ働き手は将来に不安を感じるのか。制度や待遇を整備し、社員に不安なく働いてもらう企業努力が足りないからだ。成長を感じてもらえる研修体制の整備や、働きがいを高める給与体系といったものに経営資源を投入しないから、社員が不安を感じているのである。

 社員に全力で働いてもらえるように、処遇や環境を整備するのは本来、企業の責務だ。それを副業という、一見社員の自主性を尊重する制度で代替させようとしているようにしか思えない。

 多くの企業は、従業員の副業を就業時間外に行うよう規定している。いくら本業に差し支えない時間とはいえ、夜や休日の空いた時間に別の仕事をしていたら、そのうち本業にも悪影響を与えてしまうのではないだろうか。(中略)

 働きに応じた処遇を整備すれば、従業員のモチベーションは上がり、やりがいや創意工夫を持って仕事をする動きが活発化する。その結果、生産性も上がる。副業を考える人も出なくなるだろう(注3)」。》

経営者の発言から滲み出る
会社側の強気な姿勢

 この発言には、雇用保障や生活保障などの企業と正社員の相互期待(心理的契約)が示されている。

 企業は社員に雇用保障や生活保障をすることが責務である。その責務を果たせば、正社員は一所懸命に働くので、副業などしなくなる。しかし、現時点ではその責務を果たしていない企業が多い。だから、正社員は副業をする。企業は、もっときちんと責務を果たそう。つまり企業側からの視点としての心理的契約の履行を果たすことの重要性を述べている発言だろう。

 この発言においては、企業が責務を果たすことは良いことであり社会的正義だ、という考えが根底にあると思われる。それは企業が正社員に良いことをやってあげている、という考えなのだろう。

(注3)『日経ビジネス』2022年12月12日号、p.33.