だからといって、中国側に同情しろ、要求に応じるべきだ、と言いたいのではない。逆に日本人にとって、こんな中国の国情を理解することは事態の全容を理解し、次のステップに踏み出す良いきっかけになるはずである。

社会主義国の「号令」システム~54万件は本当に多いのか?

 中国は社会主義国である。もちろん、今では多くの民間企業が設立され、各方面でビジネスを行っている。だが、政府がいったん号令を出せば、そのような民間企業でも従わなければならない義務を負わされており、応じない者には刑事罰までちらつかせて強制的に屈服させるシステムになっている。

 もちろん、政府は屈服させられた彼らの損益など度外視である。特に末端になればなるほど役人たちは自身の政績のために、何を置いてもひたすら政府トップの政策を隅々に行き渡らせることに力を注ぐ。

 航空会社が54万枚の日本行き航空券の無償キャンセルに応じた? それもそのはず、中国の航空会社のほとんどが国有企業である。国有企業のトップは国家公務員である。つまり、国が経営する企業の利益を犠牲にすれば、政策遂行はそれほど難しいことではない。

 さらに考えてみてほしい。キャンセルされた54万枚は本当に多いのだろうか? 確かに数字的に見れば、それを単純に往復チケットと換算して約27万人分という数は大きいのかもしれない。

 ただし、その数は、全国各地でやはり号令により中止された日本行き団体ツアーのために事前に押さえられていた航空券込みである。日本への団体ツアーを主催できるのは、やはり国有旅行社が中心となっており、政府の渡航中止勧告に応じてツアーは中止され、同時にストックされていた航空券がキャンセルされた。その返金対応はやはり、ほぼすべて国有企業が被る。

 そう考えると、日本人が慌てる必要がどこにあるだろう?もちろん、「何事もなければ」、そんな観光客が実際に日本に到着して消費してくれれば、日本経済にとっては収益となっただろう。だが、それはただの「取らぬタヌキの皮算用」でしかない。