変わりゆく中国人旅行者の実態

 とはいえ、今回の措置で中国からやってくる観光客がゼロになるわけではない。

 前回の渡航中止措置発令は、2012年の日本による尖閣諸島国有化がきっかけだった。当時の中国経済はまだ上り調子で、中産階級と呼ばれる人たちが激増し、消費が彼らにとって最大のエンターテインメントになりつつあった頃である。

 しかしその後、中国経済は失速した。不動産の大暴落、新型コロナウイルスの大感染が起こり、非人道的なまでに厳しい感染対策が3年も続いた。「自由」に慣れた人々はその措置に怒り、抗議し、人権を主張した。全国に広がった白紙運動(政治的主張をしないことを意味する白い紙を掲げた抗議活動)を受けて、政府が一夜のうちに全ての措置を取りやめたおかげで、今度は多くの人たちが無差別にコロナに罹患し、多くの人たちが大事な家族や友人を失った。公式には語られないが、中国では家族や友人など周囲の人を新型コロナウイルスで一人も失っていないと言い切れる人はほぼいないとまで言われている。

 そして、その後も続く経済不振でかつて「消費の頼みの綱」だった中産階級の多くが職を失い、資産を大きく減らした。そのまま再就職先も見つからないまま、今や外食配達員として働く人も少なくない。それと同時に、今年日本でも話題になった「潤」(Run)も大きな関心を呼んでいる。現行体制に不安を感じ、海外に脱出する人たちである。

 そう、人々は今や海外に脱出することで第二、第三の人生を求め始めている。そんな彼らに今、留学を思いとどまれと?

 あり得ない話であろう。

 それに加えて、それでもまだ経済的な余裕のある層では、日本への個人旅行を繰り返す人も少なくない。そんな人たちのほとんどが、観光一次ビザでなく、さまざまな手段でビジネス目的のマルチビザなどの数次ビザを取得している。