総予測2026Photo by Yoshihisa Wada

AIによる失業は事務職だけでなく、コンサルや士業といった高所得層の頭脳労働にも及ぶ可能性が高い。経済学者の井上智洋・駒澤大学准教授は、こうしたAIによる失業を早くから唱えてきた。では、AIが進化し続けてもなお人間に残る仕事や価値はどこにあるのか。特集『総予測2026』の本稿、対談の後編では、囲碁AI研究の第一人者である大橋拓文七段が、2023年に見つかった囲碁AIの欠陥を紹介。世界最強のAIでも根本的な修正が難しい問題を踏まえ、価値判断の領域をAIに任せ切りにする危険性について議論する。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)

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高所得のコンサル・士業にも及ぶAI失業
「結果さえ出ればOK」の仕事が危ない

――井上先生は2016年に上梓された『人工知能と経済の未来』において、30年ごろにAIによる失業が深刻化する可能性を指摘していました。当時よりAIが進化した今、改めてAIに奪われやすい仕事を教えてください。

井上智洋・駒澤大学経済学部准教授いのうえ・ともひろ/1975年東京都生まれ。97年慶應義塾大学環境情報学部卒業。IT企業勤務を経て早稲田大学大学院経済学研究科に進学し、2011年に同大学で博士号を取得。15年に駒澤大学経済学部講師、17年から同大学准教授。専門はマクロ経済学。16年に『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』を執筆し、AIによる技術的失業に備えたベーシックインカム導入の必要性を唱えてきた。著書に『純粋機械化経済』『AI時代の新・ベーシックインカム論』など。 Photo by Y.W.大橋拓文七段おおはし・ひろふみ/1984年東京都生まれ。2002年入段、21年七段。囲碁のプロ棋士として活動する傍ら、電気通信大学客員教授としてAI研究にも取り組む。19~20年には囲碁AI「GLOBIS-AQZ」のテクニカルアドバイザーを務めた。22年、囲碁入門アプリ「囲碁であそぼ!」を監修。25年11月、第2弾となるAIサポート付きの次世代囲碁アプリ「囲碁シル」をリリース。趣味はピアノ。著書に『よくわかる囲碁AI大全』『万里一空 大橋拓文詰碁集』など。 Photo by Y.W.

井上 仕事のタイプを「肉体労働」「事務労働」「頭脳労働」の三つに分けて整理します。肉体労働、事務労働、頭脳労働の順に所得層は高くなる傾向があります。

 まず、中所得層の多い事務労働が削られる流れは今後も続くでしょう。事務職の雇用はITによってすでに抑制されていますが、今後はAIによってさらに削られていくでしょう。

 加えて想像以上に厳しくなってきたのが、高所得層の多い頭脳労働です。コンサルタントや士業が典型ですね。

 最近では大学教員である私の仕事も「ほとんど要らなくなるのでは」と思うことがあります(笑)。私の専門分野である経済学でも、ChatGPTの方が詳しいケースが少なくありません。

 それに今の女子学生は「彼氏がひどいんです!」といった相談をChatGPTにしています。AIに顔がなくても、すでに恋愛の相談相手として機能している。そうなると勉強も「先生よりAIでいい」という認識が広がっていくはずです。

 この先、顔のあるバーチャルヒューマンが自然に会話できるようになれば、体感としても人に教わるのとほとんど変わらなくなるでしょう。

 結局、大学教員の優位性は「学生と楽しく酒を飲むこと」くらいかもしれない。仕事の価値は、そうしたAIに代替しにくい領域へ寄っていくのだと思います。

大橋 教えるという意味では、囲碁には指導碁というものがあります。先生が模範的な打ち方を教える対局です。

 今の技術なら、指導碁用のAIも作れます。ただ、それを作れば「囲碁を教える仕事」を失業させかねないことも分かっている。

 囲碁界のような狭い世界なら、内部で調整して仕事を残す道もあるかもしれません。でも他の領域では、合意形成が追い付かないままAIが進化していくと思います。

井上 やはり教える仕事は、本質的に需要が減りやすい面がありますね。

 見方を変えれば、結果さえ得られればいい領域ほどAIに代替されやすいということです。何かを教わる、手続きを済ませる。そうした場面では、手段が人間かAIかは本質ではない。

 だから大学教員や士業、コンサルタントのように、教えることや助言することが価値の中心にある仕事は、AIに置き換わりやすいと思います。

――逆に、AIが進化し続けても残りやすい仕事は何でしょうか。

次ページでは、井上智洋・駒澤大学准教授がAI時代に残る仕事のジャンルや人間の価値を述べる。対して大橋拓文七段は、世界最強の囲碁AIがアマチュアの人間に敗れた事例を紹介。囲碁AIに欠陥が見つかった後も根本的な修正が難しい実態を踏まえ、囲碁以外のジャンルでAIに任せ切りにする危険性を議論する。