ソニーグループCTF
としてのミッション
昨年度までソニーグループのCTO(最高技術責任者)を3年間務められ、現在はCTF(チーフ・テクノロジー・フェロー)として、引き続きグループ全体の技術戦略を統括されています。どのようなミッションを担っているのか、お聞かせいただけますか。
CTOを務めた3年間は、ソニーが経営機構の改革を実施し、グループの本社機能に特化したソニーグループ株式会社が発足して約1年が経過した時期でもありました。その中で私は、この改革に沿ってR&D組織の再編に取り組みました。
CTOとしての成果をもう一つ挙げるなら、「We are here for creators.」(ソニーはクリエイターのためにある)という、グループの研究開発に関する存在価値を定義し、言語化したことです。研究開発の方向性を示し、どのように実行していくのかを意思決定する際の判断指針、まさにトゥルー・ノースとなりました。「誰のための研究開発なのか」と迷った時、この指針に沿って判断することで、研究開発の優先順位が自然と定まる。実際、多くのエンジニアが日々のプレゼンテーションの中で、このスローガンを引用してくれたのは本当に嬉しかった。
そして、2025年3月末でCTOの任期が満了となりましたが、その後はCTFというポジションに任ぜられました。そこで私なりに定義したCTFのミッションが、「インテリジェンス・アンド・インスピレーション」です。
前者の「インテリジェンス」は、いま世界で何が起きているのか、技術の最前線を分析し、経営にとって意味のある形でフィードバックする機能です。世界のテックリーダーたちと週単位で情報交換を続ける中で、彼らがいま何を考えてどう動いているかを察知し、すぐ経営に反映するわけではなくとも頭の片隅に入れておくべきことなどを整理し、経営陣と共有します。
後者の「インスピレーション」は、インテリジェンスで得た変化の兆しを踏まえ、この先自分たちがどう変わっていくべきかを構想することです。ある新興技術が我々のビジネスにどんなインパクトをもたらしそうか、その潮流を逃さないためには我々に足りないものは何かなど、さまざまな観点で私なりの解釈を交えながら、ソニーグループが目指す技術経営の姿を構想します。
すなわちインテリジェンス・アンド・インスピレーションは、最新技術が経営にもたらすインパクトを見据えた「未来への洞察」ですが、これは日々のオペレーションに追われる経営トップにはなかなかできません。ゆえに、それを担うのがCTFとしての私の役目だと思っています。そのためには、私個人もさらに成長し、広く世の中に貢献することで、人的ネットワークももっと広げていきたい。
北野さん自身もソニーCSLも、制約のない「自由度」が最大の武器であり、イノベーションの起点となるインスピレーションを生み出す源泉であるように思います。
その通りです。枠を設けないからこそ、多様でユニークなインスピレーションが生まれる。誰かが定めたルールや枠組みの中でやっていたら、ゼロイチのアイデアなんて出てこない。我々のインスピレーション・ドリブン経営を支えているのは、自由度にほかなりません。
ただ、ソニーCSLのやり方がずっとこのままでいいとは思っていません。我々にも課題はあるし、私自身がいつまでもここにいるわけでもない。だからこそ次のプレーヤーたちのためにソニーCSLをどう再定義するか、いくつかの選択肢があると思います。最大の武器である「自由度」と「多様性」を担保するためには、「1→10」「10→100」の部分をソニーグループ外に拡張したエコシステムを形成したうえで、ソニーCSL自体は「0→1」を担い続け、そのコアバリューを再定義するという選択肢もあるでしょう。これも従来の延長線とは違う展開です。どのような方向に舵を切るのか。ソニーCSLの「新たな物語」の方向性を考えています。
ソニーグループ自体も、この十数年で大きく変わりました。かつては売上げの約9割がエレクトロニクス事業でしたが、いまやエンタテインメント事業が6割を超えるまでに事業ポートフォリオが変化しており、大胆な自己変革がソニーの復活を支えました。もちろん変革には怖さも混乱も伴いますが、それを恐れて変われなかった企業の行く末は言うまでもないでしょう。ゆえに、ソニーCSLも変わり続けねばならないのです。
◉聞き手|宮田和美
◉構成・まとめ|錦光山雅子、宮田和美 ◉撮影|佐藤元一
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