写真提供:ジーニアス
首都圏における中学受験塾の王者、SAPIX(サピックス)の凋落がささやかれる今、難関校志向を売りとする「少数精鋭型」の中学受験塾の人気が高まっている。知られざる少数精鋭塾の神髄を各塾のキーパーソンへの忖度なしのインタビューで明らかにする連載『ポストSAPIX 中学受験の少数精鋭塾大解剖』#7では、大規模塾では実施困難な46コースもの「志望校別特訓」、教科別のクラス編成や担任制などを実現する「ジーニアス」の校舎責任者と対談。その前・中・後編のうち中編をお届けする。(教育ジャーナリスト おおたとしまさ)
現在の中学受験の在り方を変えるには
複雑になり過ぎた入試日程の簡素化にあり
おおたとしまさ これからの中学受験はどうなっていくと思いますか。あるいは、どうなっていくべきだとお考えでしょうか。
溝口恭司・ジーニアス校舎責任者・国語科講師 どうなっていくべきかという議論は、塾の側からはあまりありません。やはり入試問題があり、そこには学校の教育観やカラー、求める生徒像が表れます。それが出てくれば、そこに合う子を育てていくのが塾のスタンスです。それよりも塾として考えられるのは、これから中学受験がどうなっていくかということです。それでいうと、今後も塾のスタンスはさらに細かく分かれていくだろうと思っています。
おおた というと?
溝口 いろいろなサービスが出てくるということです。例えば大学受験では、大教室授業から映像授業に変わりましたよね。今は技術がさらに高度になり、もっとポータブルになっているし、AIも入ってきているので、中学受験でも自学自習に付き添うようなサービスがこれから出てくる可能性があります。その中で、個人商店のような塾はだんだん減っていくでしょう。結局、残るのは企業体になってくる。
おおた つまり細分化されたサービスが登場する一方で、プレーヤーは限られた大企業に絞られていくのではないかと。イオンのような巨大な商業施設が商店街の個人商店をのみ込んでいくような流れの中で、ジーニアスさんはどのような立ち位置になっていくのでしょうか。
溝口 業界に対してどうポジショニングしていくかという発想で動いているわけではありませんが、あえて言うなら、商店街の中の地域に根差したスーパーのような存在でしょうか。
おおた イトーヨーカドーやイオンのようなメガストアではないけれど、一部の地域で多店舗展開しているオオゼキやマルエツのようなスーパーって立ち位置ですかね。
溝口 地域に愛される存在でありたいです。
おおた 先ほど、学校が入試を作るのだから、中学受験文化を変えるなら入試が変わらなきゃという話がありました。とはいえ、今の過熱した中学受験の状況を、各私学が望んでつくってきたのかというと、そうではないと思います。そろそろゲームチェンジャーになるような塾は現れないのかというのが、この連載の意図にもなっているのですが。
溝口 塾はゲームチェンジャーにはなりづらいのではないでしょうか。
おおた 四谷大塚さんや日能研さんの週テスト主義の時代から、サピックスはゲームチェンジをしましたよね。あれは受験勉強のやり方のゲームチェンジでした。今度は「足し算」を止めるゲームチェンジができませんか。
溝口 やっぱり止められるのは入試問題だと思っています。例えば麻布の問題はある意味、昭和から変わっていなくて、足し算の論理とはまた別のところにあるわけですよね。結局そこに尽きてしまうのではないでしょうか。もう少し大きなことを言うと、これはジーニアスという組織としての意見ではなく、私が勝手に考えていることですが、入試日程が複雑過ぎるんだと思います。
おおた それは興味深い観点ですね。
溝口 要は、たくさん受けられてしまうということです。
おおた 各学校としては受験者の利便性のために入試の機会を増やしているとはいいますが、逆にたくさん受けられてしまうからこそ、爆発的に増えた入試問題のバリエーションをカバーする勉強をしなくちゃいけなくなっているということですね。
溝口 そう。今の中学受験の在り方を変えるとしたら、鍵は入試日程だと思います。でも、そんなこと、後戻りできるのでしょうか。少子化の中で、学校も受験生をたくさん確保しないといけないので。
おおた 私も入試日程が複雑過ぎると感じています。受験生の利便性を図るというのは詭弁でしかなくて、実際には偏差値を高く見せるため、延べ志願者数を多く見せるための、学校側の理屈じゃないですか。
溝口 そうですね。「来るべき生徒へ向けた入試」と「広報としての入試」の両輪が回っているのは現実としてあるので、ご家庭は本当に気を付けてほしい。その点について私たち塾にできるのは、情報の交通整理。もしかしたら、それが結果的に中学受験文化を良い方向に向かわせる道筋をつくることにつながるかもしれないなと感じました。
おおた 大手メディアも学校側の理屈を垂れ流すことが多いから、うのみにできない。
溝口 一方で、どんな学校でも、働いている先生は一生懸命やっています。仮に「広報としての入試」が目立っていたとしても、その学校を目指すことに対して子どもに引け目を感じさせてしまわないような配慮は必要だと思います。
おおた それを盾に、好き放題やる学校もあるんですよ。
4年生以降の理科・社会は
対面、オンライン、動画の3本立て
おおた 単純に通塾の負担を減らすという意味では、花まる学習会系列のシグマTECHさんなんかでは、オンラインも組み合わせることで小学6年生でも週2日の通塾で済むことをうたっていますよね。ほかにも市進(学院)さんあたりで「おうちでご飯が食べられる中学受験」みたいな話は昔からあります。もう一つ、家で勉強することが前提だと、家が子どもにとって安心できる場所でなくなってしまうという問題に対して、希学園さんなんかは「塾でやらせますから」という形を取ったりしますよね。
溝口 うちも4年生以降の理科・社会は全てオンラインで受けられます。普段の授業を配信するのではなく、リアルタイムのインタラクティブなオンライン専用クラスをつくっています。それとは別に、好きなときに視聴できる動画授業もあります。動画は動画で別撮りです。理科・社会は、対面、オンライン、動画の3本立てになっています。







