ポストSAPIX 中学受験の少数精鋭塾大解剖#6写真提供:ジーニアス

首都圏における中学受験塾の王者、SAPIX(サピックス)の凋落がささやかれる今、難関校志向を売りとする「少数精鋭型」の中学受験塾の人気が高まっている。知られざる少数精鋭塾の神髄を各塾のキーパーソンへの忖度なしのインタビューで明らかにする連載『ポストSAPIX 中学受験の少数精鋭塾大解剖』#6では、大規模塾では実施困難な46コースもの「志望校別特訓」、教科別のクラス編成や担任制などを実現する「ジーニアス」の校舎責任者と対談。その前・中・後編のうち前編をお届けする。(教育ジャーナリスト おおたとしまさ)

小学生たちの熾烈な椅子取り競争である中学受験。志望校合格を目指す親子の最初にして最大の難問が塾選びだ。首都圏における“鉄板”の選択肢といえば、SAPIX(サピックス)だろう。ところが、2025年入試で男子御三家(開成・麻布・武蔵)と女子御三家(桜蔭・女子学院・雙葉)の合格者数を大きく減らした。人気が故の「大衆化」によって、近年は絶対王者の凋落がささやかれ始めている。それを横目に存在感を増しているのが、1学年当たりの合格者の延べ人数が数百~2000人程度と比較的少人数で、難関校志向を売りとする「少数精鋭型」と呼ばれる中学受験塾だ。彼らはどのような理念の下、中学受験に臨んでいるのか? はたまた、SAPIX・早稲田アカデミー・四谷大塚・日能研という四大中学受験塾の牙城をいかに切り崩そうとしているのか? 本連載を通じて、知られざる少数精鋭塾の神髄を各塾のキーパーソンへの忖度なしのインタビューで明らかにする。

新小4までは「先着順」で入塾できる
どの学力レベルでも個々に伴走可能

おおたとしまさ いつ、どんな経緯で設立されたのでしょうか。

溝口恭司・ジーニアス校舎責任者・国語科講師 私は設立に携わったわけではないので聞いている限りにはなりますが、今も代表をしている松本(亘正・中学受験専門塾ジーニアス代表)が、大学生だった2004年に東中野(東京都中野区)で起業したのがスタートだと聞いています。最初から中学受験専門塾です。

おおた 現在の生徒数は?

溝口 6年生がだいたい500人弱です。4年生、5年生が500人台の半ばから後半です。これは6年生で辞めてしまうわけではなく、近年、新しい校舎を出しているという側面もあると思います。

おおた 校舎数は?

溝口 26年2月に白金高輪(東京都港区)にも出す予定です。それを含めると、ジーニアスグループ全体で11校舎になるかと思います。

おおた 「グループ全体で」というと、別ブランドがある?

溝口 門前仲町(東京都江東区)にグレイシャスという塾があって、一応別ブランドになります。後からグループに入った塾で、教材は同一です。

おおた どう違うのでしょうか。

溝口 正直、私もきちんとは分かっていません。

おおた より上位層向けとか?

溝口 アッパー層向けといったことはまったくありません。新小4までは無選抜の先着順なのはどちらも一緒です。小学校の普通の勉強ができるご家庭であれば、どんなレベル帯のお子さんでも、最上位から基礎的なところまで、一人一人に伴走できると考えています。

おおた (ジーニアスの)ホームページによれば、直近の合格実績は、筑駒(筑波大学附属駒場)、開成、麻布、武蔵、駒東(駒場東邦)、渋渋(渋谷教育学園渋谷)、渋幕(渋谷教育学園幕張)あたりに6~7人ずつ、桜蔭と雙葉が1人ずつ、女子学院と豊島岡(豊島岡女子学園)が4人。「入試直前期まで継続的に指導したGグループ生446名の実績です。2月の全合格校、1月の主要合格校を掲載しています。各種テスト会・単発講座のみの受講生を含みません」とあります。

溝口 全国学習塾協会にある基準(受験直前の6カ月間のいずれかに〈1〉「在籍」があり、かつ〈2〉同期間に受講契約に基づく30時間以上の「受講」の実態がある生徒、あるいは継続して3カ月以上の「受講」の実態がある生徒)よりも厳しめに設定しており、3カ月以上在籍していたとしても、単発の講座を数回受講しただけの場合には、合格実績に算入していません。少なくとも30時間相当の「受講」であったり、数カ月間の特訓の内容を受講した実態があったりして、初めて合格実績に算入する候補となります。

おおた 平日は他塾に通っていながら、志望校別特訓だけ受けている生徒もいますよね。

溝口 はい、そんなに多くはないです。もともと志望校別特訓は、内部生の志望校を見てコースを決めるんです。ただ、最近は中堅層を中心に増えています。

おおた 志望校別特訓だけを受講している生徒も合格実績には含まれていますよね。

溝口 基準に達していれば含んでいます。ただし、それに対して直前に猛烈に時間を割くといった営業はしていません。25年は9割がレギュラー生、1割が講座生でした。

おおた では本題に移ります。現在の中学受験をどう見ていますか。

溝口 中学受験は「足し算」の論理で教材やカリキュラムができている印象があります。

おおた 子どもたちが取り組まなければいけない課題の量が増すばかりということですね。

溝口 質も少し変わってきたようです。いわゆる知識の単問は、特に難関校を中心に減っています。一方、とにかくたくさんの文章や図表を読ませるのがトレンドです。求められる処理力が上がっていますよね。特に「新興」といわれるような学校の入試問題がある意味成熟してきたというか、人によってはそれを「悪問」という方もいるかもしれませんが、それぞれのスタンスが出てきたなとは感じますね。