ソネットの出資により2000年に創業したエムスリーは、同年に「MR君」の提供を始めます。当時の医薬品営業は医薬情報担当者(MR)が医師をリアルで訪問し、医師の外来が終わるのを待って情報を提供するというアナログなコミュニケーションが一般的でした。このMR業務をウェブ上で代替し、効率化するというのが「MR君」のコンセプトです。

 2003年にエムスリーは親会社ソネットの「Medipro」事業を吸収し、総合的な医療メディアの色を強めます。

 当時の報道によれば、統合時点の会員数はエムスリーが約4万人、「Medipro」が約11万人、統合後の会員数は重複を除き13万人となりました。グループ内の類似事業を統合し、一気に会員数という「面」を押さえることができました。

 2004 年のIPO(新規株式公開)時点では、日本国内の医師総数25万人の約 3分の1に相当する 8 万人以上の医師、8万人以上の医療従事者が会員登録するサービスに成長しました。

売上高の海外比率は約3割
順調に世界で規模を拡大

 医師会員の投稿・閲覧や製薬会社の情報が集まることで、ネットワーク効果も生まれます。医療関係者の情報ニーズに応えたほか、地方医師や開業医でも最新の医療情報にアクセスできる点も評価されたようです。

 会員獲得時には、MRから会員登録用のサービスコードを医師に渡したり、登録時に申請を必要としたりすることで会員の質を担保していました。

 またMRのメール閲覧やアンケート回答などで医師にポイントを付与する施策を導入。医師側の利用は基本無料とし、むしろ費用を投じてポイント(報酬)を配布することで囲い込みました。

 強固な会員基盤をベースに、今では医療情報だけではなく、国試対策や転職・求人、開業医の事業承継など、医師のライフイベント全般をカバーする企業へと成長しています。

 さらに冒頭で述べたように、エムスリーの活動は日本にとどまりません。

 M&A(企業の合併・買収)を通じて世界で医師ネットワークを形成し、全世界の医師の50%以上となる650万人をカバーしているといいます。これは、類似企業の米WebMD Healthの運営する医療従事者向け情報サービス「Medscape」の抱える医師会員数と同規模です。

 エムスリーの売上高に占める海外比率もここ数年は3割前後で推移しており、日本のネット企業として海外でも一定の成功を収めている稀有な企業だといえます。