共立学校や旧制開成中学に通った者で、明治・大正・昭和にかけて歴史に名を刻んだ人物が相当数いる。

 その典型例は、『坂の上の雲』(司馬遼太郎著)の主人公である俳人の正岡子規と海軍軍人の秋山真之だ。二人は、松山市の旧制中学(現愛媛県立松山東高校)を中退、上京して共立学校で英語などを勉強し、大学予備門に入学した。

 共立学校に一時期、在籍していた人物では、ジャーナリストの長谷川如是閑(にょぜかん)がいた。明治から昭和にかけ朝日新聞社などで健筆を振るった。前出の渡辺とは対照的に、進歩・反権力の論陣を張った。

 戦後すぐにNHKの5代目会長を務めた社会統計学者の高野岩三郎も、共立学校出身だ。

 旧制の開成中学出身ではラジオ東京(現TBSラジオ)アナウンサーだった近江正俊や、岩波書店の社長を務めた緑川亨がいた。新制開成高校出身では、科学ジャーナリストの倉澤治雄らが挙げられる。

 テレビのクイズ番組やバラエティー番組などに毎日のように登場し、売れっ子になっているのは伊沢拓司(94年生まれ)だ。開成高校1年生時に「全国高校クイズ選手権」に出場し、初優勝に導いた。東大経済学部に進学し、17年にクイズ番組「東大王」で優勝した。クイズを題材としたウェブメディアを運営する会社を立ち上げ、クイズプレーヤー、タレントとして独立した。

 元クイズプレーヤーで、現在は医師の水上颯(そう)もいる。

歌人・精神科医の斎藤茂吉や
小説家の吉村昭も卒業生

 文芸の世界で名を残した人物を、挙げてみよう。

 俳人では子規に加え、ホトトギス主宰の高浜年尾が旧制開成中卒だ。著名な俳人が先輩にいたことを背景に、開成高校の俳句部は実力を誇っている。毎年8月に松山市で行われる「俳句甲子園」(全国高校俳句選手権大会)では、25年の第28回大会までで優勝14回を数える。うち第23回から26回まで、4年連続で優勝している。

 俳句部顧問を務める教員の佐藤郁も開成高卒であり、「佐藤郁良(さとう・いくら)」の俳号で活動している。

 歌人・精神科医の斎藤茂吉は明治時代、旧制開成中学を卒業した。ダダイスト・思想家、詩人・翻訳家である辻潤は同級生だったが、中退している。

 詩人・小説家の島崎藤村は明治学院本科(明治学院大の前身)に入学する前の一時期、共立学校で学んだ。

 小説家では、太宰治賞・菊池寛賞など多くの文学賞を受賞した吉村昭が旧制時代の卒業だ。緻密な取材と主観的な感情表現を省いた文体が特徴だ。代表作に『破獄』『天狗争乱』など。吉村は結局、芥川賞は逃したが、妻の津村節子(東京府立第五高等女学校・現都立富士高校卒)は、65年に芥川賞を受賞している。