Photo Masato Kato
ダイヤモンド・オンラインの連載『黒田東彦の世界と経済の読み解き方』では、いずれも財務官を務めた前日本銀行総裁の黒田東彦氏と前国際通貨研究所理事長の渡辺博史氏の対談の詳報を複数回にわたってお届けする。対談詳報の2回目は、日米金利差が縮小する中でも続く円安や、為替介入など政策を意思決定する際の当事者の判断基準について、2人の見解を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
為替予測は「言った者勝ち」
現実的に使える理論はない
――為替についてですが、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げし、日本銀行が利上げして日米金利差が縮小しても円安トレンドが継続しているのはなぜでしょうか。
黒田東彦 為替理論でしっかり検証・立証されたのは20世紀初めにスウェーデンの経済学者、グスタフ・カッセルが提唱した購買力平価説(PPP)だけです。ただ、それも短期ではなく、20〜30年の期間を取ると、購買力平価の差が為替に反映されるという立証です。ですが、購買力平価を算出するための20〜30年先のインフレ率予測などは、20〜30年先の為替予想と同じくらい難しいので、現実的には全然使えない。
金利格差の理論は、そのときの格差として採用する金利を政策金利格差にしてみたり、2年国債の金利差や長期金利差にしてみたりなど、そのときの為替相場に当たるものを持ってきただけで説明になっておらず、予測力もあまりありません。
残るは古典的な理論で、経常赤字ならば為替安となり、黒字ならば為替が強くなるというものがありますが、今の日本は史上空前の規模で経常収支が黒字です。だけどこの円安ですから、要するに為替の決定理論で使えるものはあまりないのです。
ですから為替予測はまあ、言った者勝ちで言っているだけで、何の根拠もないんですよ。私も根拠なく言えば、まあ1ドル=150円はいくらなんでも安過ぎるから、まあ120〜130円が良いところじゃないかって話しているのですが、「じゃあその根拠を示せ」と言われてもねえ、という感じです。







