「バーナンキ発言」が新興国経済を揺らしている。米国の量的緩和の早期縮小観測が浮上し、市場からカネが逆流し始めた。世界経済の牽引役だった中国でも金融不安が台頭し、懸念が深まっている。

【新興国】
量的緩和の縮小示唆で
一気にカネが逆流

 宴の終わりは突然やって来た。米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が5月22日、量的緩和第3弾(QE3)の早期縮小を示唆。6月19日にも駄目押ししたことで、新興国経済に流れ込んでいた海外からの投資・投機資金が、一気に流出を始めたのだ。

 5月下旬以降、各国の株価は急落。特にインドネシアやフィリピンは6月19日以降の1週間で、各8.7%、11.2%もの下落に至っている。

 リーマンショック以降、アジアをはじめとする新興国には、相対的に高い成長率に期待して世界の資金が集中していたが、カネ余りの状況が終わるとの観測が浮上した途端、流れが一変。今や株価のみならず、通貨や債券も売られ、トリプル安の様相を呈している。

 この状況が続けば、実体経済への影響も避けられない。とりわけ懸念されるのは、通貨安だ。新興国はいずれも高インフレという問題を抱え、これが内需への下押し圧力になっている。通貨安が進めば、輸入物価の上昇からインフレが加速する。資金流出が始まるまで、各国は逆に通貨高に悩まされていた。「その状況が一変し、行き過ぎた通貨安が懸念材料となった」(西濱徹・第一生命経済研究所主任エコノミスト)。

 通貨安は通常、輸出促進という面ではプラスである。ところが、各国ともその輸出が伸びていない。背景には、世界経済、特に米国と中国の成長鈍化がある。

 米国の景気は緩やかに回復を続けているとされ、量的緩和縮小論もそれを受けて出てきたが、「新興国景気の牽引役としては力不足」(高山武士・ニッセイ基礎研究所研究員)だ。個人消費や家計は改善しているものの、輸入増が伴っておらず、恩恵が期待されたほど新興国に及んでいない。