国内唯一のPHS事業者となったウィルコムが、全国各地の無線基地局を“地域の防災”に活用するビジネスを加速させている。
この9月上旬から、ウィルコムは、福井県福井市内の4ヵ所のPHS基地局に、メタウォーター社と共同開発した「雨量計測器」を設置し、通信ネットワークを使って雨量の実測データを常時接続・集計して浸水予測などに役立てる2年間の試験運用を始めている。
新しい点は、これまで災害対策の世界で主流だった「予測の精度を上げて対策を練る」から、実際にゲリラ豪雨などが頻発する「要注意地点の実測データをそのまま使って対策の実効性を高める」に発想を切り替えたところ。想定する売り込み先は、水害対策に悩む地方自治体である。
PHSは、1つの大型基地局で広域をカバーする携帯電話と異なり、網の目のように張り巡らせた小型基地局で狭域をカバーする。だからこそ、可能なビジネスで、通信が1ヵ所に集中してパンクすることはないので、非常時は通信手段の確保にも優位性がある。
ウィルコムの笠原秀一・次世代事業推進室課長補佐は、「今後、5~10年で約2万ヵ所に雨量計測器を設置したい」と力を込める。単純計算で、年間約5万円×約2万局、約10億円の売り上げ増になる(詳細は精査中)。
もとより、ウィルコムは、山形県の過疎地域でPHSを使ったブロードバンド環境の整備に取り組んでおり、沖縄県では町全体でPHSのイントラネット網を構築して各家庭に防災、医療、教育など地域の生活情報を配信している。
近年、加入者の減少傾向など、PHSに対する逆風が吹くなかで、既存の資産を活用して副収入を稼ぎつつ、社会インフラとしての存在意義もアピールしようという目論見のようだ。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 池冨 仁)