当事者の体験や思いが視聴者に語られていく

 LGBTQに関する基礎知識の確認を終えて、齋藤さんは、となりに座る当事者を紹介した。

 パンセクシュアルのKさんとトランスジェンダーのWさんだ(*3)。

*3 KさんもWさんもイベント内では実名で登場した。

 最初に、Kさんのライフヒストリーが、次に、Wさんのライフヒストリーが、自分自身の言葉と投影用のレジュメで、視聴者に伝えられていった。

「パンセクシュアルは、相手の性のあり方に関係なく、人を好きになるセクシュアリティです。バイセクシュアル(の好きになる対象)が男性と女性であるのに対して、私は、男性だから、女性だからという二元論で好きになるということがないセクシュアリティになります」(Kさん)

「私は3年前に性別適合手術を受けています。戸籍の変更も行い、戸籍上は女性として暮らしています。体の性別、心の性別、表現する性別、好きになる相手の性別のうち、私の体の性別は、もともと、男性でした」(Wさん)

 イベントの参加者は、視聴者として「カメラの向こう側」にいるので、登壇者や配信会場にいる関係者からは、その反応がまったく見えない。しかし、自己紹介された“となりの多様性”に、SMBCグループ、みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループの社員が集中しているのは間違いなかった。

 パンセクシュアルのKさんは、学生時代は、自分のセクシュアリティを誰からも否定されなかったものの、社会に出てからは、周りの人たちの(セクシュアリティに対する)深掘りの質問にとまどうことがあったと告白した。「自分って、いったい何なんだろう?」と思い、人とコミュニケーションを取るのが怖くなった時期もあったという。

 トランスジェンダーのWさんは、14歳の冬に、「何かが違う……少なくとも、自分は男子じゃないという感覚を持った」と当時を振り返る。

「私は長男で、姉がいるのですが……絶対に(この感覚を)言っちゃいけない。言えることじゃないって……それからずっと考え、悩みながら生きてきました」(Wさん)

 就労時の制服、更衣室、トイレ……身体的な性(出生時に割り当てられた性)と性自認が一致しないトランスジェンダーの人は、職場において、さまざまな壁を感じることが多い。転職を繰り返したWさんもその苦労を語っていく。自分のセクシュアリティを上司に伝えても理解されず、会社の上層部に相談したところ、「Wさんの人生だから好きにしていい」と言われたが、結果的に、職場にいられなくなったという。

 こうした、LGBTQの当事者の体験を、書籍やネット記事などのメディアを通じて知る人は多いだろう。しかし、今回のイベントのように、パソコン画面に映る人が、“口と手を動かして、偽りなく語る”様子を目の当たりにすることは少ないのではないか――配信会場で、うなずきながら耳を澄ましている関係者の様子を見て、筆者はそう思った。