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昨年、サントリーホールディングスで10年ぶりに創業家出身者がトップに就任する“大政奉還”があった。創業120年超の歴史を誇る日本屈指の同族企業、サントリーの足跡をダイヤモンドの厳選記事を基にひもといていく。連載『ダイヤモンドで読み解く企業興亡史【サントリー編】』の本稿では、「週刊ダイヤモンド」2009年7月25日号の記事「キリン・サントリー経営統合 食品大再編時代に突入!」を紹介する。09年7月、キリンホールディングスとサントリーホールディングスが経営統合に向けた本格交渉に入ったことが明らかになった。当時、サントリーの佐治信忠社長は「キリン以外は眼中になかった」と明言していた。記事では、食品業界の1位と2位という「勝ち組」が驚天動地の経営統合を進めた背景に加え、両社の統合が大再編時代の呼び水になるとの見立てを解説している。(ダイヤモンド編集部)
「相思相愛だから思いを遂げたい」
食品業界1位・2位の世紀の大統合
「うちは婚活していたから。片思いならしょうがないけど、相思相愛だから、なんとしても思いを遂げたい」
佐治信忠・サントリーホールディングス社長は、「結婚相手」に決まったキリンホールディングスに対する思いを独特の表現で打ち明けた。
サントリーの年間売上高は1兆5000億円で食品業界2位。ウイスキーは首位、清涼飲料は2位、ビール系飲料も昨年(2008年)黒字化して3位に付けている。
片やキリンの売上高は食品業界首位の2兆3000億円。今年の上半期ベースではビール系飲料シェアで3年ぶりにアサヒビールから首位を奪還し、意気が上がっている。
キリンもサントリーも前期決算で史上最高益を更新し、単独での生き残りが可能とみられていた。そんな業界1位と2位の勝ち組が経営統合するというのだから、まさしく驚天動地の再編である。真の強者同士の経営統合は、他の産業を見渡してもほとんど例がない。
キリンとサントリーが統合すれば、売上高3兆8164億円、経常利益1822億円(08年度合算)、世界有数の巨大食品メジャーが誕生する。
国内市場で見れば、ビール系飲料シェアは50%を超え、これまでトップを死守してきたアサヒを13ポイントも上回る。清涼飲料に関しても、業界のガリバーと呼ばれてきた日本コカ・コーラに肩を並べる規模になる。業界1位、2位の統合だから、当然、売上高は国内では断トツだ。
世界市場でも酒類・飲料メーカーとしては、米コカ・コーラを抜き去り、食品大手の米ペプシコや米クラフト・フーズにほぼ匹敵する規模になる。
すでにサントリーは統合に向けた専門チームを社内に設置済みで、資産管理会社株を保有する創業家一族の同意もほぼ取り付けてあるという。今年4月には純粋持ち株会社に移行しているが、それもキリンとの統合に備える布石だった。
一方のキリンは、直近4年間でM&Aに7500億円もの資金を投じた専門部署、戦略企画部を擁している。年明け以降、統合交渉には付き物のファイナンシャルアドバイザーもメインバンクも介在させないまま、トップダウンで話は進んだ。
「週刊ダイヤモンド」2009年7月25日号
両社は年内の合意を目指している。合意後、まず持ち株会社同士を統合し、両社の事業をぶら下げる。これが統合の第1段階となる。第2段階は、その両社の事業をビール系飲料や清涼飲料など、事業ごとに一本化していく。この2段階にわたる統合を合意からわずか16カ月以内でやってしまおうと計画している。
「飲料は当社の方が強いが、ビールは弱い。だからビール事業はキリンさん主導、飲料は当社主導による事業統合になるだろう」(佐治社長)
最初の関門は、持ち株会社の合併比率算定である。サントリーはキリンとの「対等合併」を主張しているが、例えば前期決算の純利益はキリン801億円に対してサントリー320億円。同じく純資産はキリン1兆1499億円に対してサントリー4218億円。今後、企業価値評価(デューデリジェンス)の作業に入るが、キリンの株主が対等合併に納得するかどうかは微妙な状況だ。
キリンの加藤壹康社長は「とにかく何もしゃべれない。年内に統合合意に至りたい」と答えたきりで、だんまりを決め込んでいる。その背景には、かような事情もあるのだろうか。
だが合併比率を巡って、この「縁談」が壊れることはおそらくあり得ないだろう。後述するように、統合の背景には、将来に危機感を抱くキリンの加藤社長、サントリーの佐治社長の強い意思が働いているからだ。
統合交渉が明らかになった7月13日の翌日、佐治社長は全社員にメールを送り、「サントリーの新創業」「やってみなはれの精神で頑張っていこう」と訴えかけた。この統合に懸ける熱意が、文面ににじんでいた。







