ダイヤモンドで読み解く企業興亡史【サントリー編】#51

昨年、サントリーホールディングスで10年ぶりに創業家出身者がトップに就任する“大政奉還”があった。創業120年超の歴史を誇る日本屈指の同族企業、サントリーの足跡をダイヤモンドの厳選記事を基にひもといていく。連載『ダイヤモンドで読み解く企業興亡史【サントリー編】』の本稿では、「週刊ダイヤモンド」2003年12月20日号の記事「サントリー 目標は売上高3兆円! 佐治社長が仕掛ける組織改革、M&A戦略」を紹介する。03年秋、サントリーは創業以来初となる組織の大改革に踏み切った。記事では、その狙いを佐治信忠社長のインタビューでの発言などを基に解説。売上高を倍増させる「3兆円構想」の実現に向けた、M&A戦略の方向性についても分析している。(ダイヤモンド編集部)

サントリーがカンパニー制導入
業績好調下の大改革の狙いは

 今年9月に発令されたサントリーの人事異動資料は数十枚に上った。本社従業員の3分の1、1500人が対象となる大異動だったからだ。

 人事大異動は、10月から導入したカンパニー制の布石である。六つの事業本部・事業部を五つのカンパニーに再編。それぞれのカンパニーが個別に営業部隊を抱え、予算達成の責任を負う体制に一新したのだ。

 サントリーにとって創業以来の大改革である。カンパニー制導入を決断した佐治信忠会長兼社長は、5人のカンパニー社長のことを「社長」と呼び、「予算計画を達成できなければ責任を取って辞めてもらう」とクギを刺した。

 現場はてんやわんやである。ワイン&スピリッツ(W&S)カンパニー社長の寺澤一彦取締役が言うように、「これまでは社員全員が戦艦大和に乗っている気分だった。だが、五つの駆逐艦に分乗するとなると、下手をすれば沈没しかねない」。

 食品、ビール・RTD(低アルコール飲料)、W&S、外食・開発、海外。五つのカンパニーは、数字を稼ぐために早くも社内で競争を始めた。

 とりわけ、目の色が変わっているのが、ビール・RTDカンパニーである。40年間にわたって営業赤字を垂れ流してきたビール事業については、「まともに資本金を割り振れば、大債務超過」(佐治社長)だ。

 そこで、利益率の高い低アルコール飲料と合体させることでカンパニーの収支をトントンにし、資本金もゼロとした。だが、来期も赤字が続けば、いずれ債務超過である。

「週刊ダイヤモンド」2003年12月20日号「週刊ダイヤモンド」2003年12月20日号

 カンパニーの業績は、損益計算書だけでなくバランスシートでもチェックされる。「ハンディを背負っているほど、やりがいはある」とビール・RTDカンパニー社長の柳謙三常務取締役は言うが、先行きは容易ではない。

 ビール・RTDカンパニーの営業マンが、量販店や飲食店に対して、自社製品のウイスキーやワインを押しのけるようにして、ビールを売り込みかねない勢いである。W&Sカンパニーと競合するカクテルベースの低アルコール飲料については、同じ研究所の中にあっても、商品開発案は極秘事項だ。ウイスキーやワインでは、カンパニーの数字は伸びない。数字が伸びなければ債務超過に陥る。普通の会社なら「倒産」だ。

「バランスシート評価で成り立たない事業については、撤退も辞さない」と佐治社長は言い切る。実際、すでに医薬品事業や出版事業からは手を引いた。かつてなかった緊張が、五つのカンパニーに走っている。

 こう書くと、サントリーが深刻な業績悪化に苦しんでいるように思えるだろう。だが、事実は逆なのである。過去10年間、サントリーの売上高はほぼ右肩上がりで伸びている。ここ数年間の経常利益は700億円前後で、過去最高の水準だ。

 業績だけを見れば、サントリーにこれといった死角はない。にもかかわらず、佐治社長がかくも厳しい改革に打って出る真意はどこにあるのか。