例えばシンガポールのエチレンメーカーであるPCSは、中東からの原材料調達が困難になり、不可抗力条項を発動した。同社には住友化学など日系企業が50%を出資する。

 また、アルミニウム大手のカタルムも、天然ガスの不足などにより不可抗力条項を発動した。完全な操業再開には半年~1年ほどかかる見込みのようだ。

 カタールでは、イランのドローン攻撃で、尿素やポリマーの生産も停止に追い込まれた。ウクライナ戦争勃発後にも見られたが、尿素価格の上昇は肥料・飼料の価格を押し上げる。それによって、世界的に穀物など食料の生産コストが上昇し、インフレ懸念は高まる。尿素は、ディーゼル車の排ガス浄化にも使われている。

 半導体の生産に必要な、ヘリウム関連施設でも操業が止まったようだ。世界的なAI(人工知能)分野への成長期待から、AIチップの需要は高まっていた。それに伴い、シリコンウエハーの冷却に使う、ヘリウムの需要も増えていた。イラン攻撃の激化は、半導体分野にも甚大な影響を及ぼすのだ。

 インドネシアでは、ナフサの調達が急減し、合成樹脂の原料であるエチレンの工場稼働率が低下した。ベトナムでは、LNGの供給が一部で停止した。イラン紛争は、世界の基礎資源の供給網を寸断し、幅広い産業に負の影響を与えている。

米国・中国・ロシアの
相対的なパワーバランスは変わる

 イラン戦争は、世界の政治や安全保障などの構図にも大きな変化をもたらしている。特に、米国・中国・ロシアの相対的なパワーバランスは変わりつつあるようだ。

 例えば天然ガス価格の上昇は、ロシア財政の収入増加を支える。また、米欧の目線が中東に向かったことで、ウクライナへの関心が分散する可能性もある。イラン情勢が一段と混迷すれば、エネルギー資源価格は急騰するだろう。しかも、米国の近代兵器の多くは、中東地域に向かう。イラン紛争は、プーチン大統領に多くのプラス要素をもたらすはずだ。

 一方、中国の習近平国家主席にとっても、米国の軍事力が中東へ向かうのは悪いことではないはずだ。ただし、中国は原油とLNGの世界最大の輸入国だ。中東からの輸入は全体の50%程度を占めるとみられる。