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税制改正による富裕層への課税強化によって、個人で「不動産」を保有して相続税や所得税を抑えるという、これまでの“常識”だった節税術が大きく揺らいでいる。だが、不動産それ自体の資産価値が損なわれたわけではない。連載『富裕層必見! 資産防衛&節税術』の第16回では、税制改正によってメリットが増した「法人」を活用する不動産戦略を指南する。(有栖川アセットコンサルティング代表 鈴木子音)
不動産活用による節税術に締め付けも
不動産の資産価値は損なわれていない
昨今、不動産オーナーや富裕層の方々とお話ししていると、「これまでの前提が変わりつつある」と肌で感じている方が、増えてきたように見受けられます。
個人で不動産を保有し、相続税や所得税の負担を抑えるという発想は、長く一つの“常識”として共有されてきました。しかし今、その前提は揺らいでいます。
もっとも、不動産という資産の価値そのものが損なわれているわけではありません。揺らいでいるのは、不動産活用における「入り口」と「出口」の条件です。
まず「入り口」とは、取得と相続評価の局面における変化です。現在示されている税制改正の方針では、不動産を取得してから5年以内に相続が発生した場合、路線価などによる従来の評価ではなく、通常の取引価額を基礎とする水準で評価することが打ち出されています。これまでは相続が発生する直前まで現金を不動産に転換することで評価を圧縮する余地がありましたが、取得から短期間で相続が発生するケースについては、その効果が大きく抑制されることになります。
次に「出口」とは、売却益に対する課税環境の変化です。2027年以降、高額所得者に対して最低30%の税負担を求める「ミニマム課税」が強化されます。この制度は、一定水準以上の所得を有する個人について、各種控除や分離課税の仕組みによって実効税率が過度に低下することを防ぐためのものです。
具体的には、総所得金額等が一定額(1.65億円)を超える場合、その超過部分に対して「30%相当額」を最低税負担とする計算が行われ、通常の税額との比較で不足があれば追加納付する仕組みとなっています。注意すべきは、不動産の長期譲渡所得であっても、この判定対象に含まれるという点です。
例えば、他の所得と合わせて年間1.5億円の所得がある個人が、長年保有してきた不動産を売却して3億円の譲渡益を得た場合、従来の分離課税では約20%水準が想定されていた税負担が、全体で30%程度にまで引き上げられ、単純計算でその差額は3000万円弱に達します。これからの出口戦略を描く上では、これまで以上の緻密さと、慎重なまなざしが求められることでしょう。
この背景には、国の財政事情のみならず、課税の公平性を巡る議論があります。高額資産家に対する最低税負担の確保や、形式的な取引による評価圧縮の抑制は、いずれも「実質を重視する」という方向へのシフトの表れです。富裕層課税を議論の俎上に載せる中で、短期的な圧縮策に厳しい視線が向けられるのは、避け難い流れといえるでしょう。
ここで見誤ってはならないのは、不動産そのものが否定されたわけではないという点。見直しの対象となっているのは、「短期取得による急激な評価差」を前提とした設計です。時間をかけて保有し、事業として運用することまでが否定されたわけではありません。むしろ、計画性を伴った保有戦略が、これまで以上に重みを持つ時代へと移りつつあるといえるでしょう。
入り口での短期圧縮が難しくなり、出口での税率も読みづらくなる――。この二つの変化を前提にすると、相続における不動産の活用は、単なる「商品選び」ではなく、本質的な「構造設計」であることが見えてきます。そこで改めて比較検討の対象になるのが、次ページで詳しく解説する「資産管理法人」という器の活用です。







