化学サバイバル#26三井化学 市村聡社長 Photo by Toru Sasaki

三井化学は石油化学事業の分社化を打ち出すなど石化再編を主導してきた。2026年4月には、石化再編の実行に向けて、橋本修会長、市村聡社長の新体制に移行した。ただし、石化再編によって大きく会社の形を変える三井化学は何で稼ぎ、どう成長していくのか。特集『化学サバイバル!』の本稿では、4月に社長に就任した市村氏を直撃。石化再編の「次」に描く成長戦略を聞いた。(ダイヤモンド編集部 金山隆一)

中国の過剰生産と日本の縮小
石油化学の「次」を模索する理由

――三井化学は何で稼ぎ、どんな強みを持つ会社でしょうか。

 化学は、天然の物を化学製品に置き換え、人々の生活を便利で豊かにしてきました。紙をプラスチック包装に置き換え、木や金属をプラスチックに置き換え、車のバンパーや歯科材料、眼鏡レンズ材料なども生み出し、生活の高度化に貢献してきました。

 代表例が眼鏡レンズをガラスからプラスチックに置き換えたことです。三井化学が高屈折率の材料を見つけたことで軽量化が進みました。今後求められるのは、単なる汎用品ではなく顧客に合わせて材料をカスタマイズする力です。従来は顧客が材料を使いこなしていましたが、今後は三井化学が顧客に使いやすい形に材料を改良し、提供していくことだと思います。

――全社売上高の3割超を占める石油化学事業を分社化する一方、ライフ&ヘルスケア、モビリティ、ICT(半導体・電子材料)の成長3領域への特化を打ち出すなど、なぜ今、会社の形を大きく変える必要があるのですか。

 第一に、中国勢の台頭です。中国は国内需要向けに生産能力を大幅に増やしましたが、供給能力は過剰となり、グローバル市場に製品があふれています。特にマスプロダクション領域では中国製品と競争せざるを得なくなっています。

 第二に、日本国内需要の縮小です。人口減で国内のマスプロ向け需要は減っていきます。そして、中国の脅威は量だけでなく、スピードにもあります。日本なら2~3年かかる大型プラント建設を、中国では24時間3交代・土日稼働で、1年程度で進めることもあります。高度なことというよりは、労働力と実行スピードのパワーが脅威です。

――橋本修会長が昨年、石油化学事業の分社化を決めました。10年後の三井化学はどんな会社になるのでしょうか。

 石油化学事業が主力、注力分野ではないから切り離すということではありません。石油化学は世の中になくてはならないものです。日本で供給し続ける強い会社をつくるために分社化するという考え方です。

 石化メーカーはそれぞれ2~3割程度の得意なスペシャリティー領域と、7割程度のコモディティー領域を持ちます。複数のメーカーが組み合わされば、各社の得意領域を積み重ねることで、単なる能力削減ではなく、得意分野に特化した強い石化事業体をつくれるのではないでしょうか。

 一方で、三井化学本体は成長3領域をバランスよく伸ばしていきます。現時点では、どれか一つに集中するのではなく、3領域の技術がつながることで新しい価値を生み出せると考えています。

――しかし、石化事業の分社化で失うものもあるのでは。

 失う可能性があるものとして、大型プラントを設計し、建設し、安定運転する技術があります。自社触媒、自社プロセス、大型プラント運営は三井化学の強みで、分社化でこれを失うことは避けなければならない。

 分社化に向けたポイントは三つあります。第一に、分社化後の会社がキャッシュを回せる持続可能な会社になること。第二に、技術の分断を防ぐこと。第三に、社員のモチベーションを維持すること。技術分断については、サービス契約だけでなく、AI(人工知能)を使って暗黙知を形式知化し、保全や運転ノウハウを人に依存しない形で共有できるようにしたいと考えています。

――成長3領域だけで本当に成長を続けていけるのでしょうか。

次ページでは石油化学事業分社化後の三井化学をどうかじ取りし、PBR1倍割れから脱却していくのか。これまでのM&Aの総括を踏まえ、今後の投資戦略に迫った。