化学サバイバル!#14Photo:JIJI

総合化学メーカーの医薬品・ヘルスケア事業で田辺三菱製薬や住友ファーマのリストラや売却観測など暗い話題が多い中で、旭化成が独自のM&A(企業の合併・買収)戦略を軸に成長を遂げている。2012年の米ゾール・メディカル買収以降、ヘルスケア領域を新たな柱とする姿勢を鮮明にし、大型買収を重ねる一方、ポートフォリオに合わない事業は切り出すなど大なたを振るう。実は、旭化成と財閥系総合化学の医薬品・ヘルスケアビジネスの買収戦略は、案件選定や買収を手掛ける体制などで大きく異なる。特集『化学サバイバル!』の#14では、旭化成のM&A戦略の神髄を探った。(医薬経済ONLINE記者 吉水 暁)

転機は1800億円の巨額買収
救急救命医療機器を柱に

 まず旭化成のヘルスケア領域の概要を見てみよう。2024年3月期の同領域の業績は、売上高が5538億円、営業利益が485億円。いずれも2桁の増収増益を確保している。今の旭化成の二枚看板であるマテリアル(化学など)、住宅に比べると、売上高こそ1兆円前後を誇る両領域に劣るものの、営業利益はマテリアルをしのぐ水準となっている。26年3月期も増収増益の見通し。12年の米ゾール・メディカル買収前の12年3月期の同領域の売上高が1195億円だったことを思い返すと、その急成長ぶりがうかがえる。

 三菱ケミカルグループ(G)や住友化学といった総合化学大手が医薬品一本やりできたのに対し、旭化成は幅広く、医薬、医療(医療機器)、クリティカルケア(救命救急医療)の3事業で構成される。旭化成ファーマ、旭化成メディカル、ゾール・メディカルといった子会社が事業に携わっている。

 旭化成といえば多角化経営の優等生とよくいわれるが、その一環として今のヘルスケア領域に足を踏み入れたのは1974年のことだ。旭メディカル(現旭化成メディカル)で人工腎臓の生産を始めたことを嚆矢とする。78年にはがん治療薬「サンフラール」を発売し、製薬業に参入。さらに92年には東洋醸造を合併し、医薬品事業の基盤を確固たるものとした。

 長く医薬品、医療機器の二本柱で地味に展開していたヘルスケア領域に転機が訪れる。それは12年にゾールを1800億円で買収したことだ。ゾールは「クリティカルケア」と呼ばれる、自動体外式除細動器(AED)といった救急救命医療機器などを手掛ける。市場で存在感もあったが、いかんせん知名度は低い。このため、「買収当時は『よく分からない医療機器メーカーによく大枚をはたいたな』と揶揄された」と、ヘルスケア領域を主に歩んだある役員は振り返る。だが、今では収益に大きく貢献し、同領域の成長をけん引する存在となっている。

 旭化成はゾールの買収をどのように成長につなげていったのか。実は、ゾールの買収は歴代首脳にとって多角化を目指す強い決意の表れといえるものだった。巨額買収をきっかけに、旭化成はヘルスケアに大きくかじを切った。ただし、単に規模拡大を追っていったのではなく、そこには明確な独自戦略が存在している。次ページでは、買収案件の選定や、買収を手掛ける体制など旭化成の独自のM&A戦略をひもといていく。