社喰い#9Photo by Yasuo Katatae

33億円で買収した会社を、1年後に100万円で売却――。船井電機・ホールディングスが美容脱毛サロン「ミュゼプラチナム」を手放した先は、香港企業の日本法人であるKOC・JAPAN。割引クーポン券「Cポン」などを展開する同社だが、取材を進めると代表者は所在不明で、助成金の不正受給や金銭をめぐる訴訟など、不可解な実態が浮かび上がってきた。新刊『社喰い』(著・片田江康男、ダイヤモンド社刊)から企業買収の暗部に踏み込んだルポを抜粋してお届けする。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)

33億円で買収した会社を
100万円で売却

 2023年4月、船井電機・ホールディングス(HD)は大手美容脱毛サロン「ミュゼプラチナム」を33億円で買収。しかし、想定を上回る資金繰り難に直面し、わずか約1年後には売却を決断した。

 すぐに買い手として挙がったのが、KOC・JAPANという会社だ。同社は、船井電機HD代表の上田智一氏に財務的な助言をしていた公認会計士から提示された売却先だった。売却を即決した上田氏は、当時の心境をこう話している。

「われわれとしては、これ以上(ミュゼに)資金を提供できない。船井電機を守るという観点で、そこに売ろうと決めました」

 2024年3月22日付で船井電機HDとKOC・JAPANの間で締結された「持分譲渡契約書」によると、譲渡代金は100万円。

 その代わりKOC・JAPANは、金融機関からの債務などに対して船井電機HDや船井電機、そして上田氏らが負っていた連帯保証債務などを解除するよう「最大限努力をする」と明記された。

 平たく言うと、船井電機と上田氏は、2023年4月に33億円で買収したミュゼを100万円で売却する代わりに、巨額の赤字を垂れ流し、際限なく運転資金を要求するミュゼと、連帯保証から解放されるという契約だった。

 ところが、である。上田氏の代理人はこう話す。

「100万円でミュゼは売却しましたが、連帯保証は外れませんでした」

 連帯保証が外れなかったことについて、ミュゼ関係者はこう見解を話す。

「上田さんが連帯保証を外してほしいと言っても、外すかどうかは債権者が判断するのが普通ですよね。(上田氏の)連帯保証を引き継ぐのは(株主として経営に参画する)KOC・JAPANになるのでしょうが、KOC・JAPANでは(連帯保証を提供するのは)無理だったのではないでしょうか」

香港企業の日本法人
代表者は行方知れず

 そもそも、KOC・JAPANとはどのような会社なのだろうか。

 法人登記簿によると、KOC・JAPANは広告代理事業及び宣伝業務と、飲食店経営を目的としていたようだ。香港企業の日本法人で、過去には中華系とおぼしき名前の複数の人物が役員として就任していたことが記されていた。

 同社は日本で、「Cポン」という割引クーポンサービスを運営しており、ホームページ上では、加盟店が1万店を突破したと喧伝していた。

 そこで、KOC・JAPANの代表取締役に対して、一連の経緯と、連帯保証と債務を引き継がなかったことについて話を聞くべく、電話や手紙で取材を依頼した。ところが一切返事はなく、手紙は受取人不在で返送されてきた。

 さらにKOC・JAPANの会社登記簿にあった本店(東京都中央区)を訪ねると、真新しいコワーキングスペースがあるのみ。念のため移転前の住所にも足を運ぶと、KOC・JAPANの郵便受けは残されていたが、オフィスへのエレベーターは不通となっており、電気メーターも停止していた。代表取締役の自宅にも訪ねてみたが、そこはもぬけの殻となっていた。