ビジネスパーソンに必須!経済&ビジネスの最重要キーワードPhoto:PIXTA

連載『ビジネスパーソンに必須!経済&ビジネスの最重要キーワード』の今回のキーワードは「購買力平価」です。為替レートの「適正水準」を考える代表的な物差しです。国債通貨研究所が算出する2026年6月の消費者物価ベースでの購買力平価は1ドル=106円91銭ですが、実勢相場は160円前後と大幅な円安水準にあります。なぜこれほど大きな乖離が生じたのでしょうか。購買力平価の仕組みと過去50年の推移から、現在の歴史的な円安を読み解きます。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

1ドル160円は「円の実力」なのか
購買力平価で分かる為替の適正水準

 今週のキーワードは「購買力平価」です。

 7月末に実施された日米協調による円買い介入を受け、円の対ドルレートは1ドル=164円近辺から急上昇し、その後、一時155円台を付けました。しかし、その効果は長続きせず、8月12日時点では159円台まで再び円安方向に押し戻されています。

 為替レートの水準や変動を説明する際には、2国間の金利差、貿易・経常収支、投機筋の動向、外国為替市場の需給など、さまざまな要因が使われます。その中で、長期的な為替レートの水準を考える代表的な物差しの一つが「購買力平価」です。

 購買力平価とは何なのでしょうか。

 一言で言えば、二つの国で同じモノを同じ価格で買えるようになる為替レートです。「一物一価の法則」を為替レートに当てはめた考え方といえます。

 例えば、日本でHBの鉛筆1本が100円で売られているとします。全く同じ鉛筆が米国では1ドルだったとすれば、両者の価格が同じになる為替レートは1ドル=100円です。

 仮に日米で売られている商品がこの鉛筆だけだとすれば、購買力平価は1ドル=100円ということになります。

 この考え方を身近な商品に当てはめたものとして有名なのが、英国の経済誌「The Economist」が公表する「ビッグマック指数」です。

 各国のマクドナルドで販売されているビッグマックの価格を比較し、その価格が同じになる為替レートを計算した上で、実際の為替レートと比較して、それぞれの通貨が割高か割安かを示します。

 2026年7月のデータでは、日本のビッグマックは500円、米国では6.22ドルです。500円を6.22ドルで割ると約80円39銭となります。つまり、ビッグマックだけを基準にすれば、購買力平価は1ドル=約80円です。

 これに対して当時の実勢レートは1ドル=162円程度でした。ビッグマック指数では、円はドルに対して約50%過小評価されている計算になります。

 ここで注意したいのは、「円が50%過小評価されている」ということが、円そのものの国内での購買力が50%小さいという意味ではないことです。

 実勢の為替レートが、ビッグマックの価格から計算した購買力平価よりも大幅に円安になっている、という意味です。

 実勢レートを1ドル=160円とすると、米国で6.22ドルのビッグマックを円に換算した価格は約995円になります。日本では500円ですから、ほぼ2倍です。同じ商品でも、円をドルに替えて米国で購入すると日本より格段に高く感じる状況になっています。

 もちろん、現実の経済にはビッグマック以外にも膨大な種類の商品やサービスがあります。

 そうしたさまざまな物価を使って、より総合的に計算されるのが一般的な購買力平価です。購買力平価は英語でPurchasing Power Parityといい、頭文字を取って「PPP」と略されます。

 購買力平価には大きく分けて、「絶対的購買力平価」と「相対的購買力平価」があります。

 現在の2国間の商品価格を直接比較して、同じ商品を同じ価格で買える為替レートを求めるビッグマック指数は、絶対的購買力平価の考え方に近いものです。

 これに対して、ある基準時点の為替レートを出発点に、その後の2国間の物価上昇率の差を積み重ねて計算するのが相対的購買力平価です。

 次ページでは、国際通貨研究所が算出している相対的購買力平価を使って過去約50年間の推移を振り返り、現在の円の対ドルレートが購買力平価からどの程度乖離しているのかを見ていきます。