高市370兆円投資から抜け落ちた「農業改革」、既得権益の“本丸”コメ産業は再生できるかPhoto:PIXTA

高市政権が掲げる2040年度までに累計370兆円超の官民投資。その対象にはフードテックが入る一方、コメをはじめとする既存農業の構造改革は目立たない。コメ価格が異常な高値から下落に向かう今こそ、価格維持を重視してきた農政を転換し、増産・輸出と企業参入による生産性向上を進めるべきではないか。(昭和女子大学総長顧問 八代尚宏)

370兆円官民投資の「盲点」
農業の生産性改革が抜け落ちている

 高市早苗政権が発足して間もなく1年を迎える。その看板である「責任ある積極財政」では、2040年度までに累計370兆円の官民投資を呼び込み、日本経済を成長軌道に乗せるという。

 新産業の育成は不確実性が大きい半面、生産性が低迷する産業を平均並みに引き上げる政策は、より確実である。

 後者の代表例である農業については、植物工場や陸上養殖などのフードテックが戦略分野に盛り込まれた。だが、主食用米など既存の農業の生産性向上や、民間企業の参入を促す農地制度改革は、官民投資ロードマップの主要項目には位置付けられていない。

 農業再生のカギとなるのは主食のコメである。最近、25年産のコメ価格は下落傾向にあり、9月頃から登場する26年産の新米の価格は前年産の水準よりも安くなる見込みだ。

 高騰したコメ価格が下がることは消費者にとっては朗報だが、大幅な価格下落は農業経営には大きな打撃になる。農業従事者が減り、生産量が減少すれば、再びコメ価格上昇につながる可能性があるとして、政府の価格支持策を求める声が高まっている。

 これに対応して政府も、これまでの放出で32万トンにまで減った備蓄米を、9月中に20万トンを軸に買い戻しを実施すると報じられている。

 しかし、最近のコメ取引価格の値下がりは、異常な高価格の25年産米と比較したもので、23年以前の平均的な水準と比べれば、まだ倍近い価格である。この高水準での価格安定を目標とした備蓄米の買い入れを是認すれば、更なる備蓄米の積み増しを求める政治的な圧力がかかるおそれもある。

 次ページでは、24年から25年にかけてのコメ価格高騰の原因を振り返り、進めるべき農業政策について検証する。