日銀9月利上げの「援軍」ベッセント発言はもろ刃の剣、利上げ加速は思惑合致も“悪しき前例”は残るPhoto:Melissa Sue Gerrits/gettyimages

日本に対するベッセント米財務長官の一連の発言は、日銀の利上げ(9月および12月と予想)を実施しやすくする。しかし、+0.5%の大幅利上げや連続利上げの可能性は低く、市場の期待はやや行き過ぎている。また、政策当局ではなく海外要人の発言に市場が大きく反応する事態は、“悪しき前例”として当分尾を引くだろう。(SOMPOインスティチュート・プラス エグゼクティブ・エコノミスト 亀田制作)

ベッセント長官発言前から
金融市場は日銀に9月利上げを迫る

 現在の金融市場は、8月末から9月上旬にかけてのスコット・ベッセント米財務長官の一連の発言を受けて、大きく揺れ動いている。まずは、長官発言前の状況を整理してみよう。

 前回のコラムで筆者は、日銀の追加利上げ時期を10月、ただし原油価格が高止まる、あるいは為替相場が再び1ドル=160円を大きく超えて円安に向かう場合には9月利上げもあり得る、と予想した。

 その原油価格(WTI先物)をみると、中東情勢の悪化から9月初めには再び1バレル当たり90ドルを超えた(足元は100ドルを超えている)。また、為替相場では比較的速いペースで再度円安が進行し、8月末には早くも1ドル=160円台に復帰していた。こうした情勢から、ベッセント長官発言前の8月下旬時点で既に、金融市場は日銀の9月利上げをほぼ確実視していた。

日銀に利上げを催促する市場
ベッセント発言は強力な「援軍」に

 日本に対するベッセント長官の発言は、こうした市場の流れの中で行われた。具体的には、米財務省は8月30日、ベッセント長官が日銀の植田和男総裁との会談の中で、「円の大幅な過小評価に対処するための、日本の市場および金融政策上の断固たる措置を強く支持する」と発言したことを公表した。

 また、9月1日のG20後の記者会見でベッセント長官は、「日本はリフレ政策をやめるべきだ」と公言。同8日には「(為替市場において)私が胴元である」という発言まで飛び出した。

 市場は、日銀の9月利上げについては織り込み済みであったが、長官発言を受け、10月以降も日銀の利上げペースが加速するとの見方を急速に強めた。東短リサーチ/東短ICAPが発表している金利スワップ市場から算出した利上げ確率をみると、9月利上げの後、年内の再利上げが8~9割方織り込まれている。

 また、一部の見方ではあるが、9月と10月の「連続利上げ」や、一度の会合で+0.5%の大幅利上げに踏み切るという観測さえ浮上している。さらに、市場が予想するターミナルレート(今次利上げ局面で最終的に到達する政策金利)も、2%をはっきりと超える水準まで上昇しているとみられる。

 日銀の利上げ加速を織り込んだ結果、為替相場は一転して急速な円高に向かい、足元は154円台で推移している。このように、為替に注目すると市場の見方が反転したかのように見えるが、事の本質は、日銀の金融政策を「ビハインド・ザ・カーブ」とみて利上げを促す市場の動きが、ベッセント長官発言という強力な「援軍」を得て本格化したということだろう。