山口廣秀・日興リサーチセンター理事長Photo by Kuninobu Akutsu

政府主導の賃上げが続いても、生産性が向上しなければ「賃金と物価の好循環」は持続しない。財政面では、インフレによる税収増を新たな歳出に回す政策が続き、将来の利払い費増加や財政悪化への懸念が強まっている。日本銀行元副総裁の山口廣秀・日興リサーチセンター理事長へのインタビュー後編では、成長戦略と規制緩和、責任ある積極財政、日銀の国債・ETF(上場投資信託)処分、ウォーシュFRB(米連邦準備制度理事会)議長が目指す中央銀行改革について聞いた。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

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官製賃上げだけでは成長できない
必要なのは財政より規制緩和

――日銀がこれまで言及してきた賃金と物価の好循環の達成具合については、どんなふうにみていますか。

 好循環の前提は、生産性の上昇です。賃金だけが上がり続けることは考えられません。生産性が上がって企業収益が増え、それが賃金に反映される。その結果、物価上昇率を上回る賃金上昇になる。こうした構造が必要です。しかし、今、生産性が上がっているかというと、必ずしもそうではありません。

 賃上げが続いているのは、政府の音頭取りに企業が従っているからという面が非常に強いと思います。このままでは、賃金も上がる一方で、物価も同程度かそれ以上に上がるという悪循環になりかねません。

 企業収益は当然、下押しされます。企業収益が下押しされる中での賃上げの先行きについては、消費者も当然理解していきますから、消費者マインドにも下押し圧力がかかります。最近、日銀が「賃金と物価の好循環」に言及しなくなったのも、局面が変わったと認識しているからでしょう。生産性が上がらない中で賃金上昇だけが先行するのであれば、持続性には疑問が残ります。

――生産性向上、成長率底上げのためには、高市早苗首相が打ち出した370兆円の官民投資のように、財政がある程度道筋をつけるような役割が必要なのでしょうか。

 全く不要だとは思いませんが、この20年余り、どの内閣も一貫して成長戦略を掲げてきました。しかし、実現していません。政府が音頭を取っても、企業はなかなか動かないのです。

 まず必要なのは、規制緩和です。例えば、雇用の流動化に関わる規制を撤廃する。そこに手をつけられないことが、もともとうまくいかない要因だと考えます。ですから、今回の総花的な成長戦略がうまく機能し、成長につながっていくとは考えにくいです。

――高市内閣は規制緩和には、あまり前向きではないように受け取れます。

 役所が規制緩和にブレーキをかけているということなのだろうと思います。

――官僚がある程度抵抗してでも進めていくことが、政治の役割ですよね。

 そうです。しかし、そうならないのは、政府内に財政拡張を唱える人が相当数いて、規制緩和よりも財政を有効に使い、それを火付け役として民間企業をリードできれば、日本経済の活力は復活すると主張しているからだと思います。しかし、これまでその戦略は成功を収めていません。

――少なくとも規制緩和と財政出動と両方やればいいのでは。

 そうです。

――規制緩和を進めると、当初はデフレ的な効果が出てきますから、そこを財政で下支えすればよいのではないでしょうか。

 そうですが、そうした政策論は出てきません。単純に、財政を使ってこの国の経済を成長させるという一辺倒の政策は、国民にとって分かりやすく、企業も付いてきやすい。しかし、そのやり方に限界があるのであれば、民間企業ももっと言うべきことを言うべきだと思います。

政府主導の賃上げや官民投資だけでは、日本経済の持続的な成長にはつながらない。次ページでは、山口氏がインフレによる税収増に依存する財政運営、日銀に求められる国債・ETF(上場投資信託)処分のあり方、ウォーシュFRB(米連邦準備制度理事会)議長の改革について語る。