Photo by Fusako Asashima
デンソーが日本特殊陶業に売却する予定だったスパークプラグ事業の譲渡が白紙になった。売却価格1800億円を超える事業をライバルに譲り渡す大型再編となるはずだったが、デンソーが進めてきた事業ポートフォリオ改革はここで一歩“後退”する。これと並行して、社内では経営幹部の役割変更が進み、新たに「羅針盤チーム」なる会議体も発足した。その顔ぶれを見れば、デンソーの経営の重心が大きく動き、会社が一つの転換点を迎えていることが浮かび上がる。特集『自動車 解体』の#14では、プラグ売却撤回の理由と羅針盤チームの陣容を追い、デンソーの独立路線に何が起きているのかを検証する。(メディア編集局論説委員 浅島亮子)
ライバルとの大型再編が白紙に
デンソーの構造改革が「後退」
10月2日、デンソーが日本特殊陶業に売却することで合意していたスパークプラグ事業と排気センサー事業の譲渡が白紙になった。破談はデンソー側の事情によるものだ。
両社は2025年9月、事業譲渡契約を正式に締結していた。当時、日本特殊陶業が公表していた譲受価額は1806億円。25年3月期の対象事業の売上高は1918億円に上る大型案件だった。
今回の決断は、単なる一事業の売却中止では片付けられない。
スパークプラグは、ガソリンエンジンで混合気に点火するための部品で、典型的な内燃機関向け製品だ。自動車業界が電動化やSDV(ソフトウエア定義車)へ軸足を移す中、デンソーは内燃機関部品事業を整理する一方で、電動化や半導体、ソフトウエアなど成長分野に経営資源を振り向ける事業ポートフォリオ改革を進めてきた。
今回のスパークプラグ事業売却は、そうした“事業の選択と集中”を象徴する案件だった。
スパークプラグは、デンソーにとって70年近い歴史を持つ事業である。1955年に独ボッシュとの技術援助契約を基に開発を始め、59年に「P2プラグ」を発売。その後も新製品を相次いで投入し、2018年には生産累計60億本を達成した。
そんな歴史あるかつての主力事業を、世界シェア約5割を握るライバルの日本特殊陶業に譲り渡す。過去の成功事業にも聖域を設けず、成長領域へ経営資源を振り向ける。それが近年のデンソー改革の特徴だった。
ところが、その大型再編が土壇場で白紙に戻った。これは一案件の撤回にとどまらず、これまで進めてきた事業ポートフォリオ改革に軌道修正が迫られたことを意味する。
そして、その背後ではデンソーの経営中枢にも大きな異変が起きていた。表向きの役員人事だけでは見えにくい、経営体制の組み替えである。
社内でひそかに発足していたのが、一部の幹部だけで重要案件を議論する「羅針盤チーム」なる存在だ。
次ページでは、プラグ事業売却が止まった背景を明らかにするとともに、その裏側で進んでいた権力中枢の変化を、羅針盤チームの陣容と実態から読み解く。







