主査に部下はいない。頼れるのは「説得力」だけ

F:自動車会社の開発責任者というのは、組織の力学でオイコラと部下に指示を出して動かすことだってできる。実際にそうしている人も取材を通してたくさん見てきました。でも山口さんはそうしなかった。

山:他社さんのことは分かりませんが、マツダの主査には部下が一人もいないんですよ。

 ボディ開発にはボディ開発の組織がありますし、操縦安定性には操縦安定性の組織がある。それぞれに責任者がいて、エンジニアはその組織に所属しています。

 主査はそういう組織を横断して一つの車種をまとめる立場です。だから人事権もありません。自分の部下として直接命令できるわけではないんです。オイコラなんてとんでもない(笑)。そうなると結局は説得力しかないんですよ。

 こういうクルマを造りたい。お客様にこういう価値を届けたい。そのためには何を優先するべきなのか。

 それをみんなに理解してもらって、自分たちで考えて動いてもらうしかない。だから開発メンバー全員が同じ価値観を持つことが重要だったんです。

初めての主査、CX-5を任された重圧

F:山口さんは、車種単独の主査をされたのは今回初めてと伺いました。初めての主査の仕事がマツダの屋台骨を支えるCX-5。任されたときはどんなお気持ちでしたか。失敗したら切腹ですよね、相当なプレッシャーだったでしょう。

山:新しいクルマを自分で開発できるんだと最初はワクワクしましたよ。ただいろいろと条件を聞いていくうちに「これはヤバいぞ」と(苦笑)。CX-5はマツダにとって本当に重要なクルマですから、重圧は相当なものでした。

 幸い販売は好調なスタートを切ることができましたので、まずはホッとしています。

 でもCX-5は長く売れ続けなければいけないクルマです。最初だけドカッと売れれば良いという話ではありません。今回私が目指したのは、日々の使い勝手に徹底してこだわって、SUVの王道を極めることでした。お客様が毎日の生活で安心して使えて、家族と一緒にどこかへ出かけたくなる。そういうクルマとして、長く選んでいただきたいと思っています。

「サラさん」って誰?マツダ新型CX-5の技術者数百人を動かした「謎の女性」山口さんが購入したCX-5はサンルーフ付きだそう。後部座席を倒すと寝転んで空が見上げられる Photo by A.T.