今回はソニーを扱う。2012年1月の第75回コラム以来であるから、1年7ヵ月(コラムの回数では40回)ぶりの登場だ。この期間、トヨタ自動車や東芝などは何回か登場させてきたので、ソニーを意図的に避けてきたともいえる。

 ここまで避けてきたのには、理由がある。ソニーの決算書を読み解くのは「しんどい」からだ。例えば「ソニーの営業利益」と「ソニー以外の企業の営業利益」とは「質」が異なることを、どれだけの人が理解しているだろうか。

 ソニーの場合、連結損益計算書の営業利益の「前」に、「持分法による投資損益」が計上されている。ソニーでは、営業外損益(連結財務諸表規則57条・58条)として扱わないようだ。この点で、まず面食らう。

 それを言い出したら、NTTドコモの「持分法による投資損益」は、税引前利益の「後」に計上されているのだから、ソニーだけが「しんどい」わけではないのだが。

 ソニーやドコモの決算書の解読作業に難渋しているところへ、企業会計審議会が2013年6月に、「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」を公表した。

 現在の会計基準は、(1) 多くの企業が採用する日本基準、(2) ソニーやドコモなどが採用する米国基準、(3) 楽天などが採用するピュアIFRS基準の三本立てになっている。

 企業会計審議会の「当面の方針」によれば、新たに、(4) エンドースメントされたIFRS基準を加えるという。別名を「J-IFRS基準」という。頭の“ J ”は、“Japanese”(日本版)のこと。

「企業内容等の開示の制度を整備する」(金融商品取引法第1条)という基本理念はどこへやら。世界の時流に乗り遅れまいとする、企業会計審議会の現実路線が、会計基準の乱立を生み出すようだ。そんなメンツよりも、まずは営業利益や税引前利益の質を「整備」してくれないかと、筆者は憂えるのである。

 もう一つ、ソニーの決算書を読み解くのに難渋するのが、報告セグメントの多さだ。「その他」を含めて9種類もある。

 2013年7月15日付の日本経済新聞では、オランダ・フィリップスの復活を紹介していた。同社はAV事業から撤退し、主要事業の数を6種類から3種類へ減らしたという。

 セグメントの数を減らせば業績は回復する、という保証はどこにもない。しかし、ソニーのようにセグメントが9種類もあると、どれに注目すればいいのかがわからない。営業利益の解読作業から始めて、9種類ものセグメントまでを解析していると、「経営分析、受難の時代」を痛感する。