起業家=エンジニアの時代に

 第4世代では、エンジニアが起業するケースが多いことも特徴だと思います。ちなみに、ここでいうエンジニアとは、ソフトウェアやシステムを製作できる技術をもつ人のことです。

 かつては社長が事業のアイデアをもち、営業も管轄。パートナーにエンジニアを迎える(あるいは雇う)というベンチャーが多かったのですが、いまは違います。第3回でお話しするように、FacebookやTwitter、スマートフォンが登場し、パソコン1台でも起業できるようになったため、最近はエンジニアがサービスをつくって自ら起業するケースが増えています。

 また、サムライインキュベートの投資条件は、エンジニアが立ち上げメンバーにいることが必須のため、投資先であるサムライ軍団の経営者は、ほとんどがエンジニアか、少なくともプログラミングの知識をある程度もっている人です。

 限られたケースですが、起業のアイデアを思いつき、僕に相談に来たあと、必死になってプログラミングを独学する人もいます。弊社の投資先ではありませんが、設立当初から支援させていただいているWeblioの辻村直也さんは立命館大学を卒業をされたのちに会社をつくられ、1か月でプログラミングを学び、いまや数千万人が使う辞書サービスを提供されています。短期間でエンジニアとしてやれるくらいになる人もいるので驚きです。

 起業家としてエンジニアが優遇される理由は、まず、アイデアを自らスピーディに形にできるということがよく言われます。たしかに、そうしたスピード感はベンチャーにとって非常に重要です。

 しかし、もう1つ大きな理由があります。それは、起業家がエンジニアであれば、資金が苦しくなっても、1人でお金が稼げるということです。

 いま、エンジニアは引く手あまたです。長期的な仕事でなくても、「ラーメン代稼ぎ」と呼ばれる、他社の開発を助ける仕事はいくらでもあります。また、パートナーや社員もエンジニアであれば、他社からの依頼でシステムやソフトをつくる「受託開発」もできます。さらに、仮に事業に失敗したとしても、働き口はいくらでもあるので、自力で再起をはかることもできます。つまり、起業家がエンジニアだとリスクが非常に少なく、良いことづくめなのです。

 もちろん、エンジニア以外の起業家でも成功している人は複数いますから、安心してください。ノボットの小林清剛さんなどは良いお手本でしょう。ただしその場合は、小林さんと同様に「起業家の人格」が重要になってきます。

 このように書きましたが、日本にたくさんいる優秀なエンジニアの数からすると、起業したい人というのはまだまだ少ないのが現状です。大学や専門学校でプログラミングの技術を身に着けても、多くの人は企業に就職します。それは考え方が保守的というよりも、起業という選択肢があることを知らないのではないかと思います。

 この前、福島県の会津大学で講演をしたときも、コンピュータサイエンスや情報システム学部の学生の多くは、なんの疑問もなく企業への就職を考えていたようです。しかし、「起業という選択肢がある」という僕の話を聞いて、驚いたような反応を示してくれました。起業という道があることを、まだまだ全国で啓蒙する必要があるな、と思った次第です。

【著者紹介】
榊原健太郎(さかきばら・けんたろう)
1974年生まれ。名古屋市出身。株式会社アクシブドットコム(現VOYAGE GROUP)創業期において営業統括として、営業本部の立上げ、営業販促戦略、広告商品開発、アライアンス戦略に取り組む。その後、インピリック電通(現 電通ワンダーマン)にて、大手情報通信・飲料メーカー・金融会社のダイレクトマーケティング戦略に従事。その後、株式会社アクシブドットコム(現 VOYAGE GROUP)に復帰、営業統括として、西日本広告販売ブランチの立上げ、営業本部の再構築、モバイルサイトの立上げに従事。2008年にシード・アーリー ベンチャーの経営・マーケティング・営業・人事・財務・CI戦略支援に特化した株式会社サムライインキュベートを設立し代表を務める。スタートアップのベ ンチャーに投資するとともに、60社程のベンチャーの社外取締役を兼務している。

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