たとえば、Synclogue(シンクローグ)の山本泰大さんです。彼は高校生のときに起業し、最初は高校生(受験生)向け口コミ情報サイト「学内.jp」を軸にした事業展開を図ってきました。
 しかし2011年に事業ドメインを大きく転換し、ウィンドウズ・アプリケーションの仮想化、クラウド化に関するサービス「Synclogue」を新たに立ち上げました。ログインすれば、どのパソコンからでも自分のインストールしているプログラムや作成したファイルが使えるというサービスです。「新しいコンセプトのサービスで世界を変える」と言って、VCのニッセイ・キャピタルとSMBCベンチャーキャピタルから数億円の資金を調達。すでにシリコンバレーにも子会社を設立し、日米、アジアでの展開を成功させようとしています。

 他にもサムライ軍団の中では、Global Online Digital Exchange, Inc.(GODIGEX)のJordan Scottさんがデラウェア州で登記し、コニャックを立ち上げたエニドアの山田尚貴さんはサンフランシスコに支社を設けています。

 また、昔は日本で会社登記をするのが当りまえでしたが、いまは「別に会社は日本になくてもいい」という起業家も多くなってきました。「海外で会社をつくって日本で展開してもいいし、日本で実績が出はじめたらすぐに海外に行ってもいい」という感覚を多くの起業家がもっています。

 サムライ軍団でいえば、trippieace(トリッピース)の石田言行さんやLiving Rooomの大沢香織さんがこれにあたります。そのため、サムライインキュベートでも登記の際、あらかじめ海外の法律によせたスキームを組むなどで対応しています。

 僕の印象では半分くらいの起業家が海外での登記を選択肢に入れていて、実際、デラウエア、ケイマン、シンガポールなどで会社を設立したり、候補地として真剣に検討しているケースもあります。

いまの起業家が最初から海外を見るわけ

 その理由の1つに、資金調達があります。海外で会社を登記すると、海外のVCから数億~数十億円の単位で資金を調達しやすく、世界への展開を加速できるからです。

 ほんとんどの海外のVCは、そもそも日本の起業家がどういうものかあまり知らないため、日本に登記している企業に投資しようとしません。仮に存在を知ったとしても、すでにシリコンバレーには有望な企業が集まっているため、日本への投資に至るまでの煩雑な手続き、文化的価値観の違い、言葉の問題などの壁を越えてまで出資しようと思わないのです。

 また、日本は世界の市場規模に比べ小さいので、いくら優良なベンチャーであったとしても日本国内向けのサービスだけでは投資先として好まれず、市場規模の大きい世界へ展開している企業が関心をもたれる傾向にあります。よって、世界的な成功を目指すなら、海外で会社を設け、アメリカやイスラエルのVCからの出資を得ることが強力なエンジンになります。

 もう1つの理由は、政府のベンチャーに対する優遇政策です。たとえば、海外ではベンチャーの法人税を免除するところが多いのですが、日本にはそれがありません。

 一例として、シンガポールでは法人税の実効税率は約17%で、設立されたばかりのベンチャーですとさらに10%ほどにまで下がります。日本の法人税の実効税率は約35%ですから、会社の利益が大幅に変わってくることになります。

 たとえ起業家が日本に貢献したいと思っていても、まずは会社を大きくしなければ意味がありませんから、海外で起業したいという人が増えるのも仕方のないことです。またこれに加えて、シンガポールやイスラエルでは海外投資家がベンチャーに出資すると、その額の一部を政府が負担してくれるスキームがあります。

 そこで現在、僕らは政府行政の関連部署へ、ベンチャーの法人税減税や特許申請費、人材紹介料の助成や補助を提言しています。たとえば、政府の法人税に関する認識では、
「ベンチャーはすぐに儲からない。赤字が数年続くのだから、法人税を免除しても大きな影響はない」というものが多いですが、僕は、
「1年目から単月黒字化するから、起業から5年程度法人税を免除したらものすごく大きい」
と話しています。

 そもそも、基本的に3年後に営業利益1億円を出し、会社の時価総額が20億円規模になるようなモデルが、投資先として目指したいラインだと考えているからです。