日本企業がスマートフォンの開発・販売から撤退するニュースが相次いでいる。かつて国内ブランドでがっちり固められていた国内の携帯電話機器市場も、グローバルブランドが幅を利かせるようになった。グローバルレベルでの出荷規模で競争が行われるようになったスマートフォン市場で、日本の製造業が表舞台からの退場を余儀なくされる背景にあるものは何か。製造開発にITをいかに活用すべきか。調査会社ガートナーのコンサルタントに話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 魚谷武志)

日本製品が退場し、
中国製品が幅を利かす現実

ガートナー ジャパンのコンサルティング部門 グル―プバイスプレジデントのチャールズ・チャン氏

 日本のハイテク分野の製造業や電機メーカーの幹部と話していると、スマートデバイスにおける、競争の現実を理解できている日本人はまだ少ないと感じる。そもそも、ある会議では、参加している経営幹部のなかに、タブレットを使っている人は一人しかおらず、スマホを使っている人は誰もいなかった。誰も使っていないものをどうしてつくることができるだろうか。

 撤退が相次ぐ日本企業に対してスマホのビジネスで成功しつつあるのは、ファーウェイ、ZTEといった中国企業だ。ファーウェイはいまや世界最大のスマートデバイスメーカーになっている。

 これらの企業は決して労働コストの安さで競争しているのではない。イノベーションで競争しているのだ。ハイテク製造業で今起きていることは、低コスト労働国が一足飛びに高付加価値製品を開発できるようになった競争環境の激変だ。日本には巨大な技術力があり、大企業もあるが、これまでとやり方を変えないと、そこからはイノベーションは出てこない。

 これから日本の製造業が復活するために重要な視点は二つある。アナリティクスとダイバーシティだ。

 製造業がすべきことは、ユーザーのニーズを知り、それをイノベーションによって製品化し、顧客のもとに届けることだ。これらデマンド、プロダクト、サプライチェーンの統合に不可欠なのが、アナリティクスであり、すぐれた企業はアナリティクスを重視し、独自の予測モデルを持ち、常にスキルを磨いている。

 製品開発とマーケティング、サプライチェーンが統合されている企業では、顧客のニーズをもとに製品開発を行うことでコスト効率と開発スピードと高い品質を同時に実現できる。ガートナーでは「サプライチェーントップ25」として、優れたサプライチェーンを持つグローバル企業についての調査をまとめているが、最新の調査でリストのトップにくるアップルはまさに、その代表格だ。

 アップルの製品開発は、ユーザーが何を欲しているかから出発している。デジタル技術によって絶えず情報を集め、顧客の顕在化していないニーズをよく理解している。そしてそのニーズに合わせ、世界中のサプライヤーから調達し、フォックスコンといったODM事業者と共同開発する。製品のライフサイクル管理(PLM)とサプライチェーン管理(SCM)を完璧なまでに統合している。