南海トラフ地震や首都直下型地震の被害想定が度々ニュースになっている。タワーマンションに対し漠然とした不安を抱いている人も少なくない。住まい運びの前に、震災に遭遇した際の超高層のメリット・デメリットを、専門家にしっかりと聞いておこう。
「命」と「生活」は別
切り分けて考えよう
1954年生まれ。東京大学工学部建築学科卒。建築再生やマンション建替えなど各種建築プロジェクトのコンサルタントとして活躍。アークブレイン代表取締役。明治大学理工学部特任教授、博士(工学)。不動産鑑定士。一級建築士。2008年日本建築学会賞(業績)受賞。
「超高層は怖い」と思う根拠はどこにあるのだろう。確かに地震や停電でエレベーターが停止すれば、高層階は「陸の孤島」と化し、オール電化マンションは「オール停止マンション」になってしまう。「しかし、そうした理由だけで超高層マンションを選択肢から外すのは、少々短絡的。命を守ることと生活継続上の問題は次元が違う。整理して考えることが大切です」と、一級建築士・不動産鑑定士の田村誠邦氏はアドバイスする。
まず、「命の問題」から。
新築タワーマンションの設計においては、建物の構造モデルに過去の地震波のデータを入れて安全性が検証される。また、国土交通省からは長周期地震動(※注)を考慮した対策試案も公表されている。
「長周期地震動が超高層建築物にどう作用するかは、検証途上の部分もあるので100%安全とは言い切れませんが、少なくともこれから分譲されるタワーマンションは長周期地震動対応を考慮した設計になっていると考えられます」
また、現在の新築物件の大半は東日本大震災以降に企画されたもの。耐震性能や防災設備などの面で震災の教訓が生かされている。
各自治体もマンションに防災備蓄を義務づけたり、震災対応マニュアルの作成を促すなど、マンションの防災対策に積極的に取り組んでいる。タワーマンションもハード、ソフト両面から防災対策に力を入れた物件が多い。
インフラの復旧まで耐えれば
価値は上昇
問題は電気、ガス、水道などのインフラが復旧するまでの暮らしだ。非常用電源を備えたタワーもあるが、非常用電源で賄えるのは長くても2~3日程度の電力だ。
「1週間は備蓄でしのぐ覚悟が必要でしょう。インフラの復旧に1ヵ月近くかかるような大地震では、高層階に住み続けることはできません。しかし、その規模の被害状況であれば、超高層でなくても避難生活を余儀なくされるはず」
一方、インフラが復旧するまでの期間を耐えれば、無事に残ったマンションはむしろ有利になる。