皇室のお立場という制約下で、
何をどう伝えるか考え抜かれたコンテンツ
久子さまには、今回、皇族の立場で五輪招致を直接訴えかけることができないという制約がありました。久子さまのスピーチは、そうした制約の中で、何をどう伝えるか、一言一句にいたるまで、考え抜かれたものであったことがうかがえます。
効果的なスピーチは、三つのパートから構成されます。聴衆の関心を惹きつけ、心を通い合わせ、テーマを述べるオープニング。本論を分かりやすく構成して伝えるボディ。一番伝えたいメッセージを心に焼き付けるクロージングです。この流れにそって、久子さまのスピーチを見ていきましょう。
■ラポール(心の架け橋)を築いたオープニング
久子さまは、まず、フランス語でスピーチを始めて聴衆をハッとさせ、注意を引きつけながら、震災復興支援への感謝の意を伝えるというスピーチのテーマを述べました。
そして英語に切り替え、皇室の役割と立ち位置について触れました。「東京でお話ししたことは、現在も当てはまります」と少し曖昧な表現だったのは、皇族として、五輪招致を直接訴えることができないことを理解してほしいという意味を伝えようとしたのだと思います。そのうえで、IOC評価委員一人一人に、心のこもった美しい言葉で感謝の言葉を述べ、最初のラポール(心の架け橋)を築きました。
■三つのことを伝えたボディ
続いて久子さまは、三つのことを伝えました。一つ目は、感謝と賞賛。IOCの特別震災支援プログラム「TSUBASAプロジェクト」が、子どもたちに笑顔を、若いアスリートに希望を与えた。そして、多くの若者がこの翼で、将来の夢に向かって羽ばたいてほしい。IOCのこの姿勢こそが、オリンピックの精神にもとづくものであり、勇気と信念を持って前に進むというオリンピックのレガシーを若者の心に残してくれた。このように、IOCが大切にする価値観に触れながら、美しく、洗練された表現で、IOC評価委員に、感謝と賞賛の気持ちを伝えました。
二つ目は、スポーツへの理解と支援。皇室は常にスポーツを支援してきたこと。さらに、宮さまが熱心なスポーツマンだったというストーリーに触れ、その後を引き継いで、九つのスポーツ団体の名誉総裁を引き継いだ。この話題を通じて、IOCと同様に、自らもスポーツの素晴らしさを社会に広める活動に取り組んでいるという共通点を強調しました。
三つ目は、IOCメンバーとの絆。これまで様々な機会を通じて、オリンピック・ファミリーとお会いした。皆さんと共にすごした多くの思い出が目に浮かぶ。そして、この場で新たに多くの方に会えて嬉しいし、今後、再び皆さんとお会いできることを祈っている。このように、これまでの情景が頭を駆け巡るような表現で、IOC評価委員それぞれとの絆の深さを伝えました。