「勝算があって始めたことなんて一つもない。無理だったなら、やめればいいわけだし…」
今回お話を伺った屋代(やしろ)卓也さんが何気なく何度も発していたセリフだ。屋代さんは音楽スタジオを経営していた1990年から音楽業界専門書籍「ミュージックマン」を毎年発刊し、98年には音楽情報やニュースのネット媒体も立ち上げて成功させた。
インタビューを通じてひりひり感じたのは、そのセリフのように初期から一種の“開き直り”を貫き通したことで、「ミュージックマン」というメディアが今、音楽業界で唯一無二の存在感を放っているのだろうな、ということだ。
「唯一無二」と言ったのには筆者自身の実体験がある。実は、週刊ダイヤモンドでは今年に入ってから2度、音楽関係の特集(「誰が音楽を殺したか」「エイベックスの正体」)を組んでいるのだが、取材段階で一番驚かされたのが、音楽メディアの大半が業界“癒着”型の記事ばかりで、少なくとも経済誌の観点からは有用なメディアがほとんど見当たらなかったということだ。
事実、当時の取材では、音楽雑誌は広告などの金銭対価を支払われない限り、歌手のインタビューを載せないことも多かったり、有名な音楽情報サイトでもニュースを一件載せることに十万円単位を徴収していることなどがわかり、一応音楽好きを自負する筆者としては「何だかなぁ」と悲しい気持ちになったものだ。要は、情報と広告の垣根がほとんどなく、結果として広告主寄りの記事が発信されることになる。
その中で、異彩を放っていたサイトが、「ミュージックマンネット」だった。独立した歌手のための音楽自主制作の仕方や、新たな音楽配信のあり方など、必ずしも既存のレコード業界が喜ばないことも、長年の音楽の蓄積を元に詳しく発信している。
もちろん、これは筆者の個人的な意見で、ミュージックマンも音楽業界とは良好な関係を築いているのだが、業界外部から取材に乗り出した我々にとって、独自の存在感を示すミュージックマンは本当に「数少ない良心」とまで感じたほどだ。