人と建物のダブル健康長寿を目指すなら、目に見えるところより、見えない建物の基本性能が大事。特に断熱性能は、日々の住み心地を決めるツボだ。一級建築士で不動産鑑定士の田村誠邦氏にマンションと戸建ての断熱性能について詳しく聞いた。
断熱性能の高い家は
体と財布に優しい
1954年生まれ。東京大学工学部建築学科卒。建築再生やマンション建替えなど各種建築プロジェクトのコンサルタントとして活躍。アークブレイン代表取締役。明治大学理工学部特任教授、博士(工学)。不動産鑑定士。一級建築士。2008年日本建築学会賞(業績)受賞。
住まい選びでは外観や設備など「見えるところ」に目が行きがち。
しかし、建築家の田村誠邦氏は、「建物の基本性能のほうをしっかりチェックしてください。後から変更が難しい部分であり、長期にわたって安心・安全・快適な暮らしを守るツボだからです。特に建物の断熱性能は日々の住み心地を左右します」と話す。
断熱性能の高い住まいは快適なだけではない。
「冷暖房効率が高く、省エネ&省コスト。今後のエネルギーコストの上昇を考えると、多少分譲価格が高くても月々の光熱費が抑えられるので十分に元がとれます。住むとわかりますが、防音性能も高いのです」
将来の資産価値も下がりにくい。国は環境対策のため、段階的に省エネ基準を引き上げている。2020年には国の省エネ基準を満たさない住宅は建てられなくなる。建物の断熱性能は省エネに最も「効く」要素。断熱性能が高い家は中古住宅市場でも有利になる可能性が高い。
マンション断熱性を比較
「内断熱」と「外断熱」
鉄筋コンクリートのマンションを断熱化する方法としては、内断熱工法と外断熱工法がある。
図1はマンションの構造の断面図。内断熱が躯体のコンクリートの内側(室内側)に断熱材を施工するのに対して、外断熱は躯体のコンクリートの外側に断熱材を施工する。建物全体が断熱材ですっぽりくるまれているイメージだ。
「コンクリートは熱容量が大きいので一度暖まると冷めにくく、冷やされると暖まりにくい。外断熱はその性質をうまく利用しています。冬は暖房を切った後もほのかに暖かく、夏は自然なひんやり感が持続する。家全体の温度差や室内の温度差も少なく、結露しにくいので、ヒートショックによる疾患やカビ・ダニによる健康被害も減ります」
さらに躯体のコンクリートの劣化やひび割れも防ぐことができる。外断熱マンションは人も建物も健康で長生き、お財布にも優しい。
ただ、残念なことに外断熱マンションは圧倒的に数が少ない。
「世界では外断熱が主流ですが、日本では内断熱が先に普及したためです。『外断熱マンションが欲しい』という声がユーザー側から高まれば、デベロッパーも変わっていくかもしれません」