JSTは二つのプロジェクトを立ち上げる
二番目に、私自身が所属するJSTである。JSTはいわば「元素戦略の言い出しっぺ」であった。2004年の箱根会議を主催し、その後、化学、物理学、金属学などの「学」、鉄鋼、セラミックス、半導体などの「産」、そして文部科学省、経済産業省などの「官」とともに、JSTは「元素戦略」をスタート時から考えてきた。こうして2010年、言い出しっぺのJST自身もプロジェクトを立ち上げることとなった。もともと、JSTは優秀な日本のトップ研究者に多額の研究資金(ファンディング)を投じる形で、基礎サイエンス分野を中心に数多くの研究プロジェクトを手がけてきた、いわば研究プロジェクトの専門組織である。
そこで両省より3年の間を置いて、JST内の「さきがけ」「CREST(クレスト)」という二つのグループ内に、2010年度からそれぞれ独自のプロジェクトを始動させた。さきがけは「新物質科学と元素戦略」(研究総括:細野秀雄)、CRESTでは「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」(研究総括:玉尾皓平)という名称をつけ、その研究開発を行なっている。
ほかにも、JSTでは、戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)におけるEUとの共同事業(希少元素代替材料)、産学共創基礎基盤研究開発におけるヘテロ構造制御、高性能磁石などもあわせて推進している。
経産省は「希少元素」ごとにスコアリング
三番目は経済産業省とNEDOだ。2007年度からプロジェクトがスタートしている。経済産業省は、レアメタルの区分とは別に、「希少元素とすべき鉱物種、元素の種類」を決めている。これは、わが国として重要かつ注視しておくべき鉱物種や元素、あるいは代替を考えたほうがよい鉱物種や元素について、シンクタンクなどを使って調査したものを点数化し、その上位(緊急性が高い)の元素から代替材料を研究開発するプロジェクトを立ち上げたものだ。
その後さらに、磁石、モーター、超硬工具といった応用先を決めて対応を急いでいる。また、新たに高効率モーター用磁石に特化したプロジェクトを、文部科学省の磁石拠点と強い連携を図りながら始動している。つまり、「必要な元素、緊急性の高い元素は何か」という切り口と、「何に応用していくか」という産業的な切り口の二つで現実的な対応をしているのが経済産業省の特徴である。
経済産業省は鉱物や資源に関する行政を所管しており、レアメタルに対応する研究開発を行なう素地を十分にもっており、文部科学省と連携することで、お互いの長所を引き出すことにつながるとの結論に至った背景がある。
また、エネルギーの問題や地球環境問題の解決を目指しているのがNEDO(ネドー、新エネルギー・産業技術総合開発機構)である。NEDOは経済産業省が所管する独立行政法人で、経済産業省の政策方向に沿った活動をしている。とくに最近は、希少金属代替や蓄電池、太陽電池など、イノベーション実現への体制強化を進めている。「元素戦略」に関連する研究開発においても、当初より経済産業省とかなり近いところで各種テーマに取り組んでいる。なお、「ナショナルプロジェクト」と呼ばれる、最先端の企業が多数参加して研究開発を進めるプロジェクトがあるが、そのほとんどはNEDO主宰によるものである。
こうして、経済産業省・NEDOが2007年に立ち上げたプロジェクトが、「希少金属代替材料開発プロジェクト」である。読んで字の如く、「希少なために入手しにくい金属元素を、他の元素で置き換えるための材料開発」をめざしている。2007年度~2010年度まで公募され、採択されたテーマについてはそれぞれ5年程度の研究期間が与えられた。
文部科学省、JST、経済産業省・NEDOという三つのグループで、計五つのプロジェクトがそれぞれの性格によって棲み分けつつ、プロジェクトの壁を越えて協力しあい、「元素戦略」という大きな目標達成に向かって進んでいるのが、現在の全体像である。
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