文科省は「基礎寄り」プロジェクト

「元素戦略」の関連プロジェクト全体をリードしているのは、次の三者だ。

(1)文部科学省
 2007年度~「元素戦略プロジェクト(産学官連携型)」
 2012年度~「元素戦略プロジェクト(研究拠点形成型)」
(2)JST(科学技術振興機構)
 2010年度~CREST「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」研究領域
 2010年度~さきがけ「新物質科学と元素戦略」研究領域
(3)経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)
 2007年度~「希少金属代替材料開発プロジェクト」

 三者の狙い、スタンスは少しずつ異なる。一番目は文部科学省だ。2007年、文部科学省はその名もズバリ、「元素戦略プロジェクト」というプロジェクトを立ち上げた。すでに2007年度~2010年度まで公募が行なわれ、研究開発が進められている。

 文部科学省は基礎研究寄りのプロジェクトだ。つまり、後述の経済産業省は産業寄りで、応用に傾斜したプロジェクトを進めるのに対して、文部科学省は基礎(学問)に傾斜したプロジェクトを進める、という棲み分けになっている。

 しかし、文部科学省は当初の採択は、必ずしもそうではなかった。たとえば日立金属と物質・材料研究機構(NIMS)を組ませる、あるいは東京大学と民間企業とを組ませるなど、産業化も視野に入れて大学のシーズと産業のニーズとをマッチングさせようと動いていた。それが経済産業省も本気で動き始めたのに呼応するように文部科学省はモチはモチ屋の原点に戻り、サイエンス寄りの戦略をさらに組み込んでいった。たとえば、2008年には北海道大学に「元素戦略教育研究センター」をつくり、「元素戦略」の人材をゼロから育てようとしている。

文科省が放つ巨大プロジェクト

 文部科学省の「元素戦略プロジェクト」の第2弾(巨大版)というべきものが、2012年7月からスタートした【研究拠点形成型】(以下、【拠点型】と略す)プロジェクトだ。事業規模は1年で22億5000万円、事業期間は10年(総額200億円程度)という、同省としてはこれまでにない規模である。

 実は同年5月、アメリカのオバマ大統領は、「元素戦略」で先行する日本に対して、「追いつけ追い越せ」とばかりに、アメリカ版「元素戦略」を始動していた。それが2010年から2011年にかけての「マテリアル・ゲノム・イニシアチブ」「クリティカル・マテリアル・ストラテジー」だ。これに対し、「他国のキャッチアップを許さない」という決意のもと、同レベルの巨大プロジェクトと期を一にして開始したのが、この【拠点型】である。【拠点型】には、日本のサイエンス史上、始まって以来のチャレンジングな方針が二つ掲げられた。

 その一つが「分野融合によるチーム編成スタイル」である。これまでサイエンス分野の研究開発というと、一つの研究室や近接する分野内で「閉じて」行なわれるのがほとんどであった。しかし、「元素戦略」では必ず成果をあげたい。そこで【拠点型】では、チーム編成に際して「異分野の人材」をわざと最初から入れることにした。意図的に異質な研究者・異質な研究分野を融合したプロジェクトチームをつくったのである。もともと、「元素の世界」は、タテ割り組織よりも、ヨコ割りに向いている。いくつものタテ割りの専門分野を、ヨコ串で「融合」する形のほうが研究開発もスムーズに進むと考えた。

 具体的には、理論、解析、実験、計算、産業化など、これまで互いに話し合う場も、交流したこともなかった異分野のエキスパートを日本国中、産学官に関係なく人材をかき集めて、三つの異なるグループを【拠点型】の中につくっていった。その三つのグループとは、次の通りである。

1.電子論グループ……新しく発展してきた理論研究と計算シミュレーションを行なう
2.材料創製グループ……それらを開発まで結びつける
3.解析評価グループ……最先端の分析・評価を行なう

 二つ目の特徴は、この研究チームがこれまでになく巨大化したことだ。一つの研究拠点が100名どころか、東京工業大学の細野プロジェクト(電子材料)では150名は優に超える研究陣を擁している。このように100名規模の研究チームが四つも一度にできたのが、【拠点型】の特色でもある。

 そして、「磁石」「触媒・電池」「電子材料」「構造材料」の4テーマごとに一つずつ拠点(大学または研究所)を決め、その拠点内に前述の1.~3.の3グループをそれぞれ設置する。さらに、拠点に協力する形で連携大学・連携研究所を外に置き、それぞれの連携大学・研究所が「電子論」「材料創製」「解析評価」の専門性でさらに協力するという二重体制である。

 この新しい体制を実現するために、【拠点型】を公募する段階から、応募規定として、「解析」「理論」「計算」などのエキスパートもチーム内に初めから加え、企業も巻き込んだうえで応募するようにと指示していた。