第三の「循環」とは、「回収、リサイクル」作戦である。古くなった製品が捨てられる際、リサイクル体制をしっかりすることで、貴重な希少元素を回収していくことができる。廃棄製品からの希少元素の回収率が上がれば、国内に資源を埋蔵していることにもなる。

 現在、ゴミとして捨てられている電気製品には希少元素が使われており、「都市鉱山」と呼ばれている。とくに日本の場合、プリウスなどハイブリッド車の保有台数は非常に多く、それ以外にも希少元素を多く含んだ先端商品・家電製品が多数出回っている。家に眠っている昔の携帯電話などが典型である。このため、日本は「世界最大の都市鉱山国家」とまで呼ばれており、そうした隠れた資源を再利用する試みである。うまく再利用するためには、製品をつくる段階から資源を取り出しやすい形、仕組みにしておくとか、壊したときに元に戻しやすい仕組みを製品に組み込む方法等を考えておく必要がある。

 第四の「規制」とは何だろうか。これは業界にとっての”逆風”をうまく利用しようということである。たとえば、かつて自動車業界にとっては大きな逆風となったマスキー法がある。1970年、アメリカではクルマの排ガス規制のためにマスキー法が施行された。世界一厳しい排ガス基準のため、当初は業界への逆風としてとらえられ、「どの自動車メーカーも基準値を超えられないだろう」といわれていたが、ホンダがCVCCエンジンを開発することによって基準値をクリアしたことで、一躍ホンダの競争力が高まり、それがわが国全体の自動車業界を牽引した。

 一見、産業界にとっては逆風と思える基準や規制──そのハードルの高さを逆用し、技術開発によって突破することで産業の推進力に役立てていこうという狙いである。最近では、EUによる輸入規制がある。たとえば2006年7月、電子・電気機器における特定有害物質(鉛、水銀など)の使用を制限した「ローズ指令(RoHS)」がEUで施行され、日本からEU内に電気製品を輸出する場合、EUのローズ指令にパスしなければならなくなった。対象製品は、すべての構成部材において、ローズ指令で指定された数値以下に制限した製品でなければ輸出できない。
 また、EUにおける健康や環境保護のために、化学物質とその使用を管理するリーチ規則(REACH)が2007年から施行された。

 このような世界各国の規制状況を把握して、戦略的に対応していこうとするのがこの「規制」を逆用する視点である。
 なお、ローズ指令そのものについては、「環境規制の名前を借りたEUによる非関税障壁」といった声もあるが、それ以上に「元素戦略」の思想に逆行する面もある。たとえば、従来、鉛など大量に存在する元素でつくられてきた製品を他の元素に代替することで「必要以上に希少元素に依存する」傾向が強まるという見方もできる。

 第五の「新機能」というのは、元素にはまだまだ我々人類が知らない「秘められた力」が隠されているはずで、それを引き出していこうという、大胆な狙いである。「驚いた! こんなふつうの元素にこんな機能が隠されていたんだ!」という発見をしていくチャレンジである。

 「元素戦略」の各プロジェクトでは、これら五つの柱(ルート)をもとに、研究・開発が進められている。