伝統産業にあって型破りな経営改革を断行する間の七転び八起きを支えた、合理的思考法と熱いスピリットをまとめた『逆境経営 〜山奥の地酒「獺祭」を世界に届ける逆転発想法』(1/17刊行)から一部をご紹介していく連載第6回。より広い市場を目指して海外販売を強化する<獺祭>は、「日本で成功している」「日本人が美味しいと思っている」そのままのスタイルの酒を、欧米でも理解してもらうことにこだわります。著者である桜井博志・旭酒造社長は、1/16(木)のテレビ東京系列『カンブリア宮殿』に出演!ワインが異文化との衝突によって、いっそう洗練されたように、<獺祭>もまさにその途上にあると信じています。
旭酒造は過去に、地元・山口県で大手や地元の有力酒蔵に負け続け、だからこそ東京へ進出しました。狭い市場でシェア競争をやっても勝てないことは、身に染みています。
ならば、東京をはじめとする国内の大消費地の次は?
海外へ出て行こう。そう考えるのが普通です。
好むと好まざるとにかかわらず、アルコール飲料の世界も国際化が進んできました。ワインやウイスキー、ビールなど、海外で発祥した酒類が、当たり前のように日本に入ってきています。ですから、日本の国内だけを日本酒の市場と考えれば、侵略される一方です。
業界全体から見ても、弊社だけの立場から見ても、さらなる未開拓な大地を目指した海外への輸出というのは、当然の選択だと思います。
現在、私たちの酒は約20ヵ国に輸出していますが、なんと言っても売り上げが大きいのは、一番にアメリカです。中でも、ニューヨークは進取の精神に富んだ都市の性格からして、一番大きな市場です。
ところが、これまでも述べたとおり、ニューヨークを見ているとフランスの影響を色濃く受けているのが分ります。たとえばニューヨークの高級レストランは、フランス人かフランス訛りの英語を話すアメリカ人を置かないと成功しない、といわれるようです。実際行ってみて頂ければ、ジャン・ジョルジュやブーレーをはじめ、日本でも知られているレストランのスタッフは、フランス人ばかりです。
そんなことからニューヨーク攻略のためにも、まずはパリが重要です。旭酒造ではニューヨークとパリを主要市場に想定して輸出戦略をたてています。昔、“ミュンヘン・札幌・ミルウォーキー”といったのはビール会社でしたが、旭酒造にとっては“東京・パリ・ニューヨーク”という3つが、地球儀の上の重要拠点です。
では、そこにどんな商品を出しているかというと、日本の市場にお出ししている酒とまったく変わらないものを出すことを基本としています。つまり、日本で売れているものを出す、という考え方です。
「日本で成功している」「日本人が美味しいと思っている」酒を、そのままのスタイルで、欧米にも理解・納得してもらうことを目指していかないと、たとえ一時的に売れたとしても、おそらく長続きしません。そして、日本酒業界にとっても決して良いことにはならないでしょう。