よく行く立ち食いそば屋「小諸そば」の日本橋本店で先日「かき揚げそば」を頼んだ。いつものように350円を払おうとしたら、220円ですと言われた。ビルの建て替えで閉店することになり、最後の1週間だけ「40年間のご愛顧に感謝」で、創業時の価格で提供されていたのだ(1月16日に終了)。
1974(昭和49)年から現在に至るかき揚げそばの値上げ率は59%だ。他の上昇率は、かけそば53%、たぬきそば45%、いか天そば32%、鳥からそば34%、えび天そば44%。トッピングによってずいぶん異なっているのが興味深い。
インフレ未経験の若い世代は「結構値上がりしてるなあ」と思うかもしれないが、客観的に見れば、それらの値上げ幅は小さい。消費者物価指数(CPI)における「食品」は過去40年で138%上昇、「麺類」は190%上昇、「外食」は172%上昇だ。立ち食いそば業界の価格競争の激烈さが理解できる。同店舗での「天丼セット」は、40年で18%しか上がっていない。
ところで、海外の食料インフレは一般に日本よりもはるかに激しい。米国のCPIを見ると、この40年間で「食品」は4.7倍、「外食」は5.3倍にもなった。人間は毎日食事をするだけに、食料の価格上昇が人々のインフレ予想に及ぼす影響は大きい。日銀は国民のインフレ予想を欧米並みに引き上げようとしている。その観点で言えば、食料価格の上昇はインフレ予想上昇のきっかけになり得るため、「よいこと」になる。
しかし、所得増加が広範囲に起きる前に食料インフレが始まったら、不満を言う人が急増しそうだ。その点で4月以降の物価の動きが注目のポイントとなる。国民が消費税率引き上げや円安に伴う値上げをポジティブに受け入れるには、先行きを楽観する余裕が必要だ。