歴史は繰り返す―。
WTO(世界貿易機関)のドーハ・ラウンド(新多角的貿易交渉)が現地時間の29日夕方(日本時間30日未明)、各国メディアの「枠組み合意は間近だ」との希望的観測を裏切って、またしても決裂というショッキングな結末を迎えた。
153の国と地域の閣僚がジュネーブで9日間という長丁場にわたって討議した非公式会議の大詰めで、インド、中国、ブラジルといった新興国と米国が農産物のセーフガード(緊急輸入制限)の扱いを巡って激しく対立し、最後まで歩み寄れなかったことが交渉決裂の直接の原因だ。これにより、年内の最終合意という目標の達成は事実上、不可能となった。
それにしてもドーハ・ラウンドほど「決裂の歴史」というに相応しいラウンドはない。準備段階で早期の交渉開始に合意できなかった1999年12月のシアトル会合、先進国と途上国の対立を最後まで解消できず当初の交渉期限(2004年中)内の合意形成に失敗した2003年9月のカンクン会合、2006年7月の日米など主要6者閣僚会合、昨年の米欧など4者閣僚会合に続いて、今回のジュネーブ会合でも決裂という巡り合わせになったからである。
ただ、米サブプライムローン問題をきっかけに世界経済が戦後、経験したこともないほど不気味な暗雲に覆われている今日、自由貿易の推進によって各国が相互に純輸出を伸ばし、世界の経済成長を刺激することは喫緊の課題だ。その重要性は、保護主義とブロック経済の台頭が第2次世界大戦を招いた歴史を紐解くまでもなく、明らかと言えよう。
米大統領選が終わらないと
交渉再開のめどが立たない
日本政府は、農業自由化を免れたと喝采する抵抗勢力の声に惑わされてはならない。むしろ、ラウンドが成功していたら実施を余儀なくされたはずの農業保護の整理・縮小を進めることが大切だ。加えて、日本政府には、マルチ(多国間交渉)とバイ(2国間交渉)の両方を同時に加速する2正面作戦が求められている。
「(再開については)加盟国・地域と話し合わなければならないが、私はタオルを投げるような真似はしない」。非公式閣僚会合の決裂を受けて、記者会見したWTOのラミー事務局長は、精一杯の虚勢を張った。だが、現実は生易しいものではない。交渉再開へ向けた具体的な段取りを問い詰められると、「現時点で見通すのは難しい」と認めざるを得なかった。