昨年の夏に、三十数年ぶりにシルクロードを走破した。蘭州を起点に、武威、金昌、張掖、酒泉、嘉峪関、敦煌、陽関、雅丹、玉門関の順で河西回廊に沿ってシルクロードの主要経路を辿り、総走行距離が2000キロ近くに及んだ。古代のロマンに浸り、東西文明を結ぶ通商の道という歴史の意義を噛みしめながら、今日の経済発展を確認する目的の旅だった。この旅の見聞と点描を本コラムでは、「久々のシルクロード2000キロ走破紀行」などのレポートでお伝えした。

NPOと伝統芸能

 しかし、数回のレポートでは旅の発見を伝えきれず、そのまま眠らせてしまったネタも結構ある。たとえば、嘉峪関を訪れたとき、遊歩道の横に紙芝居の一種にあたる「拉洋片」があるのを発見した。

 拉洋片というのは、のぞきからくりのようなものだ。箱の中にストーリー仕立てにした絵が何枚か仕掛けられている。箱に取り付けられた穴から中を覗くと、拉洋片を経営している人が音色を使い分けながら絵の解説をし、またはストーリーを演じはじめる。テレビ時代に生まれ、アニメや3Dの世界を求める今の子どもたちが、こんな古めかしい娯楽道具に興味を示してくれるのだろうか、と不思議に思った。

 拉洋片の経営者に尋ねてみたら、子どもたちはもちろんのこと、大の大人たちも結構見てくれているという。大した料金でもないし、ノスタルジックな雰囲気を味わわせてもらえるためではないか、とそれなりの回答を見つけた私は一応納得して嘉峪関を去った。

 シルクロードと拉洋片。まったく関係のない2つのものが、混じったままの旅の思い出として整理されないまま、私の記憶の倉庫に収められた。

 しかし、その数ヵ月後、上海で講演したとき、質疑応答に立った人の自己紹介を聞いて私は秘かに驚いた。紙芝居に近い伝統芸能である「皮影戯」の伝承を事業にしているNPO組織の責任者だ。