産業を変える情報技術という原動力
技術革新は経済や産業の姿を大きく変える原動力である。近年では、情報技術の発展が目覚ましく、多くの産業を変えようとしている。
情報技術(IT)によって大きく変わりつつある産業の例はいくらでもある。情報技術の革新にも関わらず産業の姿が変わらないケースを探すほうが難しいかもしれない。金融、流通、モノづくり、土木建設、交通など、それぞれの分野で情報技術が産業の姿をどう変えようとしているのか分析してみれば、それぞれに面白い結果が得られるだろう。
では、医療はどうだろうか。他の分野と同じく、医療の現場でもいろいろなかたちで情報技術の利用が拡大している。情報技術の恩恵を最も受けている分野の一つと言ってもよいだろう。
しかし、現場のことをよく知っている専門家に話を聞くと、多くの人が厳しい見方を持っている。たとえば、次のような話をよく聞く。
「電子カルテなどはいくつもの仕様があって、いろいろな病院のデータをつなげることができない」
「米国などでは、医療の現場から上がってくるさまざまなデータがビックデータとして整備されており、経済学者などの専門家がそのデータを活用して多くの有益な成果を出している。それに対して日本ではデータの使い勝手が悪いだけでなく、一部の人しか利用できないデータもある」
「欧州では家庭医(General Practitioner)と地域の専門病院が当たり前のように情報システムでつながっていて、患者の状況を相互に把握することができる。また、病院内では当たり前のように情報システムが利用されているのに、日本ではなぜかそれができていない」
「震災や津波で多くの人が被災したとき、被災者のカルテがなくなり、どのような薬を常用しているのか、どのような病歴を持っているのかさえなかなかわからなかった。この情報化の時代に、なぜカルテやレセプトの一括管理ができなかったのか」
専門家に聞くからなのか、日本の医療における情報システムの活用については、評価する声よりも問題点を指摘する声のほうが圧倒的に大きいように思える。情報システムの活用をどう変えていくかは、産業としての日本の医療の改革を進めていくうえで重要なカギとなるだろう。