問題なのは、今のビットコインの価格はそうなっていないということでしょう。今のビットコインの価格は、まるで骨董品の価格みたいになっている。これはビットコインの限界費用価格という観点だけから説明しきれるものではありません、そうなるような仕掛けがビットコインの中にもともと潜んでいたからなのですが、それが何かは後で話しましょう。

変質した通貨体制への
アンチテーゼ

――貨幣の条件は決済(支払)手段としての機能、価値を測る価値尺度としての機能、価値貯蔵する手段しての機能の3つと言われています。ビットコインはその全てを満たしているわけではないのに、なぜ急速に普及したのでしょうか。

 貨幣の発行者である国や中央銀行への信用の揺らぎ、それへの防衛という意識もあったと思います。キプロスのような国でビットコインへの需要が高まったのは、それによるものでしょう。

 でも最近のビットコインへの熱狂は、値上がりが値上がりを呼び、値下がりが値下がりを呼ぶという意味で、投機の要素が大きいと思います。そんな状況を大きな歴史の流れを踏まえて眺めてみれば、まず戦前にいわゆる金本位制の崩壊が大きな混乱と戦争を招き、だから通貨の信用を再建し維持することが大事だという第二次大戦後のブレトンウッズ会議以来の伝統的な軸足があった。そこから例のITバブル崩壊(01年)やリーマンショック(08年)のような事件を経て、各国の政府や中央銀行が揃って通貨の価値を切り下げてしまおう、ある程度のインフレにならなってもいいから企業活動を活発にしよう、だからオカネをジャブジャブにしてしまおうという方向へと、軸足を移して来てしまっていることになります。ビットコインはそうした文脈の中で生まれて来たものなのです。

 そうしたこの10年ほどの通貨体制の変質あるいは変節に対するアンチテーゼのようなものとして一気に成長したのが、ビットコインだったと言えると思います。その意味では、つまり望まれて生まれたわけではないという意味では、ビットコインは「現行通貨体制の鬼子」なのでしょうね。

 でも、そうして生まれたビットコインやその派生形ともいえる様々な暗号技術応用型の通貨――これをクリプトカレンシーと呼ぶことがありますが、今、それが非常にたくさん出て来ていて、たとえばRipple(リップル)というのは流通残高でビットコインの約2割になっています。こうして次々に作り出されるクリプトカレンシーの存在自体が、ドル・ユーロ・円の3大通貨が貨幣価値安定という長い歴史の積み上げを忘れて、「皆で渡れば怖くない」とばかりに、目先の景気対策に走るという方向に変質してしまったことに対して、極めて強烈な問題を突きつけているという面があるように私には思えます。ビットコインという場所から見ると、今の通貨がどんな問題を抱えているかが良く分かります。