中山智弘(なかやま・ともひろ)
1997年千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(工学)。民間企業の研究員から2002年に科学技術振興事業団へ。独立行政法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)フェロー、内閣府政策統括官(科学技術政策・イノベーション担当)付、内閣官房国家戦略室政策参与を経て、現在、JST科学技術イノベーション企画推進室参事役、JST・CRDSフェロー/エキスパート、文部科学省元素戦略プロジェクト・プログラムオフィサー。各種の政府委員等も務める。

中山 そうですね、片方はナノ世界で空間をつくろうという話ですし、もう一方は元素を混ぜて新しい元素をつくろうという話ですからね。

北川 でも、僕にとっての最終目標を便宜上、2つに分けて進めただけなのです。ちょっと図を見てもらいましょう。このような1ナノメートルサイズの多数の孔(穴)のあいたジャングルジム構造がMOFです。僕はこのMOFの空間構造を5年間、クレストで研究していたのです。空間ですから何もないとも言えますが、「何かを入れられる空箱」を無数に用意していると考えることもできます。図の下の方を見ると、空間とは違い、オレンジ色の薄い層があります。これは触媒で、ジャングルジム空間で捉えた窒素や酸素などの気体を、下の触媒の層で反応させようというものです。実は、2回目のクレストのテーマ「元素間融合」というのは「2つの元素から真ん中の元素をつくろう」というものでしたが、それによって高価な触媒を安価につくることを第一の目的としていたのです。

   MOFと触媒を組み合わせて効率の良い「反応炉」をつくる

──このようなナノレベルのジャングルジムの構造物を何に使うのでしょうか。

北川 それは気体の反応効率を上げるためです。たとえば、アンモニアがどうやってできるかというと、通常の反応であれば、窒素分子と水素分子がたまたま同時に同じ場所(触媒の表面)にやってきて、アンモニアが誕生するのです。このとき、鉄は触媒として働いています。でも、こんな「たまたま」が続けて起きる確率は低いでしょう。そこで化学産業ではアンモニアをどう生産しているかというと、出会いの確率を上げています。まずは圧力を上げていくことで気体が濃縮され、その分だけ気体同士の出会うチャンスも増え、そこで触媒を使って反応スピードを上げています。メーカーではそうやって生産しているわけで、これが有名なハーバー・ボッシュ法です。
 ところが、多数の孔の空いたジャングル構造のMOFは少し違います。MOFには無数の種類があって、たとえば窒素と水素だけを濃縮できるMOFもあります。そうすると、そのMOFを使えばあとはこの孔に窒素と水素が入ってきて濃縮される。要するに、これまでは偶然に任せていた反応を、MOFを使えば確実にターゲットの気体を捕捉することができます。
 このようなMOFという装置をつくるためには、あらかじめ2つの技術を用意しておく必要があります。1つは、このように狙った分子をつかまえるジャングルジムの構造物をつくりあげる技術の確立です。もう1つは、つかまえた分子の反応を効率よく進めるための革新的な新しい触媒の開発です。この2つが是が非でも必要だと考えたのです。