ジェネラリストはスペシャリストより劣っているか?

白木夏子(しらきなつこ)株式会社HASUNA代表取締役・チーフデザイナー。 1981年鹿児島県生まれ、愛知県育ち。短大を卒業したあと、2002年ロンドン大学キングスカレッジ進学。国連インターン、投資ファンド会社を経て、2009年HASUNA設立。人、社会、自然環境に配慮したエシカルジュエリーブランドを日本で初めて手掛け、注目を浴びる。テレビや雑誌やはじめ、あらゆるメディアに出演し、そのビジネスと生き方に絶大な支持を集めている。世界経済フォーラムGSCメンバー。

安藤 私、仕事にまつわる「勇気」に関して、どうしても夏子さんとお話ししたいことがあるんです。

白木 なんでしょう?

安藤 前回お話ししたとおり若い方からキャリアの相談をいただくことが多いのですが、その中でも「色々と手を出してみるものの、これだ!と思うものが見つからない」「いろいろなことに興味はあるけれど、一生をかけてやりたいことが見つからない」という悩みが目立つんです。

白木 つまり、何かひとつを極めきれない、ということですね。

安藤 私自身ずっとコンプレックスを抱いてきたので、彼らの切実な悩みが痛いほどよく分かるのですが……若い人がなかなか勇気を出せない原因のひとつに、「スペシャリスト>ジェネラリスト」という風潮があるんじゃないか、と思うんです。今の日本、そういう雰囲気があるじゃないですか。ひとつのことに全力を傾けることが正しい、というような。

白木 ええ、ありますね。突き抜けていることが素晴らしい、と。

安藤 でもね、なにかひとつに、突き抜けるほどエネルギーを注ぐことができない人はたくさんいるんです。もちろん私を含めて。
いろいろなことに興味があって、手を出す。だから、それぞれちょっとだけ知識や経験がある。けれど、プロフェッショナルにはなれない―—。今、そういう人がすごく生きづらいような気がして。

白木 よくわかります。私も、国際協力の中でも雇用促進、児童労働、環境問題……と、たくさんの「やってみたい」がありました。そのせいで進むべき道が決められなくて。専門性がないことがコンプレックスになってしまうんですよね。「器用貧乏だ」と自分を責めてしまう。

安藤今、「何者であるか」「何ができるか」というプレッシャーに、みんながさらされている時代になっていると思うんです。「やりたいことなんて変わるものだ」という雰囲気なら、もっとラクになるはずなのに。

白木 そのとおりですね。

安藤やりたいと思ったら反射的に手を出してしまえばいいんです。堀江貴文さんなんてまさにそうですよね。舞台に出演したり、選挙に出馬したり、ロケット開発やグルメサイトの運営……こう並べてみても、すごい幅の広さです。
漫画、詩、小説、ファッションデザイン、新聞づくり、演劇、バックパック旅行――これ、ぜんぶ私が思春期の頃に「やりたい!」と思っていたことです。我ながら、よくもまあころころと夢が変わったなあと思いますが……。ところが不思議なことに、この一見ばらばらの「やりたいこと」の多くが今の仕事とつながっているんですよね。

白木 たとえば、どんなことですか?

安藤 漫画や小説は、出版社に入社して。ファッションデザインは、カバンやステーショナリーなどの商品企画を通じて。新聞づくりは連載や書籍執筆を通じて。そして、今年はとある企業さんから依頼を受けて初の海外取材も敢行する予定ですが、「新聞づくり」と「バックパック旅行」がつながったんです。
最近では、とある劇団の作家さんからお声がけいただいて、ひょっとすると脚本の原案をやらせていただくかもしれないんですよ。

白木 それはすごいですね! でも、キャリア、ひいては人生ってそういうものですよね。たとえ一貫性ない選択のように見えても、やりたいことはやってみて、一歩を踏み出し続ける。そのプロセスを重ね続けていけば、必然的に道が拓けていく。私も今、まさにそういう人生を歩んでいます。

安藤 そうなんです。忘れたころにつながるんですよね。

白木 もちろん、「これで一生やっていこう」と思えることに出会えることにも、とても大きな価値があります。自分の本当にやりたいことを見つけることは、それだけで素晴らしいこと。ただ、「これだ」と決めたらその道に邁進すればいいし、見つからないときはいろいろやってみればいい。どちらかが正解ではない、ということですね。ただ、人生すべてが、今の仕事につながっているということはどちらにしろ同じことですね。