勇気を持って生きる。この課題を、生き方、働き方にどう活かしてきたのか?「ブレないこと」「ひとつのことを極めること」が正しいとされる世の中は本当に正しいのか? それぞれ若くして会社を飛び出し起業した二人が語る、「蛇行のススメ」。大反響の安藤美冬×白木夏子対談、後編。(構成・田中裕子)

かっこよく意志を貫いてきた…わけではない

安藤 この本を読んでから、私は自分のために生きてきただろうか、と人生を振り返ってみたんです。その中で、「自分で決断できなかったこと」はいつまでも強烈に覚えているなあ、と気づいて。

白木 自分で決断できなかったこと?

安藤 私、大学進学も就職も、親の反対で第一希望を諦めたんです。両方とも、チケットは手の中にあったのに。本当は、上智大学の外国語学部スペイン語学科に行って字幕や翻訳の勉強がしたかったし、映画の宣伝を扱う仕事がしたかった。

白木 あ、そこは英文学科じゃなくてスペイン語学科なんですね。

安藤 好きなスペイン映画があったことと、どうせやるなら「英語」というメインストリームから外れようかなと。今と変わらず天邪鬼だったので(笑)。まあ、今思えば「映画がやりたい」なんてものすごく漠然とした思いだったのですが。

白木 でも、親の反対で道を諦めるということは、それほど執着がなかったとも言えますよね。私も高校生のときファッションの道に進みたかったのですが、それこそファッションデザイナーをしていた母に猛反対されて。「そこまで言うなら」とあっさり断念したんです。

安藤 親に反対されて挫折。まったく同じ経験ですね。

白木 けれど、結果的にそれでよかったと思っています。短大に行ったからこそ、国際協力という人生を変える出会いを得ることができましたし。実は、「自分の思惑と違う」という意味ではもうひとつ岐路があって。

安藤 なんですか?

白木 私、本当はアメリカの大学に行こうと思っていたんです。でも、ちょうどアメリカの大学を見学しているときに、件の同時多発テロが起こって。治安が不安だということで、イギリスの大学へと方向転換しました。

安藤 でも、環境問題や人権意識、エシカル意識はヨーロッパの方がずっと高いですよね。アメリカの大学、特にMBAの評価軸は卒業生の年収で、イギリスの大学は社会起業家の排出数だと聞いたことがあります。

白木 そうなんです。だから、ラッキーですよね。こういう経験もあって、「ここは譲れない」という部分以外は流されてしまっても結果オーライだと思うようになりました。ただ、起業するときはどんな反対に遭っても自分の意志を貫きました。それが私の「ここは譲れない」だったので。

安藤 今回の本のサブタイトル、「流されない心をつくる」というのは「ここは譲れない」という部分の話ですよね。コアの部分があるから、こだわらないところでは流されることができる。

白木 ええ。あらためてこう見てみると、美冬さんも私も、決してかっこよく一本道を進んできたわけではないですよね。

安藤 もう、全然です(笑)。あのとき反対を押し切らず、親の言うことを聞いてよかった! とすら思います。だから、これからも流されてしまえって。軸さえ持っていれば、状況に応じて変化すること、流されることは決して悪いことじゃない。

白木 誰の意見も聞かず、ワンマンで人生を決めていくのもひとつの強さかもしれない。けれど、私はそうなりたくはないんです。「素晴らしい意見だな」と思えばどんどん取り入れます。やじろべえみたいに、ブレても揺れても最後には真ん中に戻っていくイメージです。一見ゆらゆらと弱いようでいて、その実、強い。かたくなな心は折れてしまいますが、柔らかく鍛えた心はすごくしなやかなんです。

安藤 ああ、すごくわかります。