普通の人が聴かなかったものを理解させた

「小林さんが憲法を読んで伝えるというのは、まさに伝え方のギャップ法ですね」<br />【小林麻耶×佐々木圭一】(前編)佐々木圭一(ささき・けいいち)
コピーライター/作詞家/上智大学非常勤講師 上智大学大学院を卒業後、97年大手広告会社に入社。後に伝説のクリエーター、リー・クロウのもと米国で2年間インターナショナルな仕事に従事。日本人初、米国の広告賞One Show Designでゴールド賞を獲得(Mr.Children)。アジア初、6ヵ国歌姫プロジェクト(アジエンス)。カンヌ国際クリエイティブアワードでシルバー賞他計3つ獲得、AdFestでゴールド賞2つ獲得、など国内外51のアワードを獲得。郷ひろみ・Chemistryの作詞家としてアルバム・オリコン1位を2度獲得。

佐々木 特に、難しい言葉のあととかで、感じますね。多分、あえてそう話されているのかなと思いました。

小林 無意識でした(笑)。後で聴き直してみます。
今回、憲法朗読という機会をいただいて、恥ずかしながら、憲法と初めて真剣に向き合いました。相当読み込みましたよ。それこそ、お風呂やベッドの中でも憲法と一緒でした。憲法を声に出して読むことで、日本という国を再発見することができたのですが、私は特に「前文」、そして幸福追求権が記された第13条に惹かれました。実は、全条文の録音が終わった後に、「もう一度、前文を読ませて下さい」とスタッフさんにお願いしたのです。

佐々木 それは、どういう気持ちの変化だったんでしょう。

小林 気持ちの変化というより、声に出して読むと、文字と声が共鳴して身体に入ってくるので「全条文読んで、全身で感じたうえで、もう一度前文を読みたい」という、そういう気持ちだったんです。

佐々木 なるほど。そもそも、この仕事を受けようと思った理由は、何だったんですか。

小林 お話をいただいたのは、昨年だったのですが、安倍総理の自民党政権になり、憲法改正のニュースをよく目にするようになりましたよね。これまでも憲法改正の動きはありましたが、一度も改正までには至りませんでした。でも、これだけ憲法に接する機会が多くなると、いよいよ本当に憲法改正するときがやってくるのではないかと。憲法を改正するためには、最終的に国民投票が必要になってきます。私たち国民一人一人の責任が問われるので、未来の日本の子どもたちのためにも、きちんと憲法を理解し、自分がどう考えるのか、しっかりとその大切な一票に意思を持たなくては!と思いました。
 まずは「知る」ことが大事ですから、憲法に関する本を読んでいたところに、日本国憲法全文を朗読するという機会をいただいたのです。

佐々木 なるほど、憲法について考えなきゃいけないって思われていた時期だったんですね。

小林 そうなんです。とにかく勉強したかったんです。ですが、いざお声をかけていただいたときには、「私の声でいいんですか?」って思わず聞いてしまいました(笑)。

佐々木 いや、でもね、その小林さんの声で日本国憲法が朗読されたがゆえに、ものすごいギャップがあってよかったんです。今まで、どうも硬く、もしかしたらそんなに興味を持たれていなかった憲法が「ちょっとおもしろそうだ」と。「聞いてみたいぞ」っていう風に受け止められたわけだから。

小林 まさに佐々木先生の『伝え方が9割』に出てきたギャップ法ですね!

佐々木 まさに!

小林 やった!嬉しい!!

佐々木 もし、小林さんが読んでいなかったら私はこのタイミングで憲法に興味を持つことはなかったと思います。この本に書かせていただいたコピー「憲法を、この僕が真剣に聞いている」は、自分自身の体験をそのまま表現しました。超意外だな、という驚きを表現したんです(笑)。

小林 コピーも書いていただき、本当に感動でした。ありがとうございました。